雲の上への扉

会いたいなぁ

メールは予想通り、南野からのものだった。
記憶が正しければメールの返事を送ったのはついさっきだ。
タイミングが良かったのだろうか、すぐに返事を返してくれたらしい。
私はすぐさまパソコンの前に座り、メールを開いた。


「えっ」


私は思わず声を上げてしまった。


“いいっすね!
じゃあ、日曜の15時に○○駅で待ち合わせましょう。
楽しみです”


私が送った熱意あるメールの返事が、たった3行だったのだ。
私は先ほどのメールに、南野からのメールの返事やその他いろいろな私の思いをありのまま詰め込んだのだ。
その中には会うことへの同意やこちらの都合の良い時間も記載しており、この度の返信はそれについて簡潔にまとめられているとは思う。
だが、私が綴った思いについては簡潔というか簡潔過ぎるというか、あまりにも素っ気無いように感じた。


「あー、やっぱいきなり失礼だったか・・・?
それとも変なやつ、いや、めんどくさいやつと思われたんだろうか」


勢い任せに軽はずみな行動をしてしまった後悔で私は頭を抱えた。
昔からそうなのだが、私は空気を読むことが苦手なのだ。
それ故ずっと当たり障りなく無難に生きてきた。これは自衛なのだ。
しかしやってしまったことは今更変えられない。


「まぁ、会ってくれるって言うし・・・」


私は仕事鞄からスケジュール帳を取り出し、今週末の日曜に丸をして15時駅と書き込んだ。
忘れることはないと思うが、念のためだ。
プライベートではあまり使うことのないスケジュール帳だが、何か予定が入ったときはこうして書き込んでおくことにしている。


「えーっと、今日が火曜だから、日曜まで水、木、金、土、日、と
5日か」


指折り数えて確認する。
こうして数えてみると意外と遠く感じた。
普段の5日なんてあっという間に過ぎていくのだが。


「南野は駅にあの人形を連れてくるんだろうか」


公園で見た南野のドールを思い出す。
また会いたかった。


「さすがに人の多いところじゃ目立つか」


待ち合わせをする駅は決して大きい駅ではないが、それなりの人の出入りがある場所だ。
いくらリアルな等身大人形とはいえ、自分で歩いてくれるわけではないだろう。
移動となると持ち上げて動かす必要がある。
あの大きさの動かず喋らない人型の物体をずっと担いでいるのは怪しすぎる気がした。
合流した後南野がどこへ向かうつもりかはわからないが、当日はドールを目にすることはないかもしれない。


「会いたいなぁ」


私は誰も聞いていないのをいいことに、自分の希望を口外に放出した。
だからどうしたということもないが、口に出すことで欲求が少し抑えられるような気がするのだ。
私は気持ちを落ち着かせると、朝から点けっぱなしのパソコンの電源を落とした。


前の記事へ          次の記事へ
トップページへ

PAGE TOP