連続小説

明るさ

働きながらこういう活動をしているわけではないのだろうという事は薄々感じていたが、まさか元銀行員だとは。
言われてみればそんな雰囲気があるような気がする。
しかし、なんだって辞めてしまったのだろう。
銀行勤めなら安定しているだろうに。
親の物だと言っていたが、こんな大きな家に住んでいるような人間だ。
私とは価値観が違うのかもしれない。


「なんで辞めたのかって顔してるね?」


南野が私の顔を覗きこんでにやつく。


「え、あ、いや!」

「いいよいいよ、銀行で働いていたって言うと皆そういう顔するからね。
元々銀行はさ、親のコネで入れてもらったんだよ。
こう見えて若い頃はやりたいこととか目標とかなんにもなくてね。
ただ毎日なんとなく面白おかしく生きていければいいやーって」


何も答えていないのに南野が話し始める。
私が聞きたいような顔をしていたというより、どうやら話したかったようだ。


「そんな中でさっき話したみたいにラブドールとの出会いがあって。
仕事は特に嫌いでも好きでもなかったんだけど、お金もらえるからなんとなーくだらだら続けていて、そんな時に親が立て続けに病気で亡くなってね。
色々あって大金がぽんっと入ったわけだから、これを機に好きなことを仕事にしてみよう!ってなって、手始めに仕事を辞めたわけ」

「ええ!?」


親が亡くなったくだりからの急展開に、そこまで頷きながら聞いていた私は驚く。
きっと本来そこには紆余曲折あり彼なりの葛藤や苦悩があったのだろうが、話しぶりからはまったくそれが感じ取れなかった。
むしろ、人生が開けたような明るさすら感じる。
重い話を明るく話すのはこちらに気を使わせないための配慮なのかと思ったが、それにしても展開が急すぎた。


「わかりますよ、東谷さんの今の気持ち。
私も最初聞いた時は驚きましたもん。
凄いですよね、気持ちの切り替えと行動力が」

「はは、いや、ほんと」

うんうんと頷くツキコに、私は苦笑いで答えた。
なんともコメントのしようがない話なのだ。
重い背景があるせいで笑うのも不謹慎な気がするし、かといって明るく話しているのだからその部分に触れるわけにもいかない。
私の心中は、彼女の言うそのままだった。


「皆そう言うけどさ、仕事していたら集中できないじゃない。
時間だって自由が効かなくなるしさ。
それにこっちを本気でやらなくても仕事があるからいいやってなっちゃうの、嫌じゃない。
私はね、本気でこれをやらなきゃ!っていう状況にならないと動けない人なんだよ」


それを聞いて、やはり彼はただ者ではないのだと私は思った。
考え方が行動できる人間のそれなのだ。
変化を恐れ常に安心や安定を求めてしまう私のような人間とは違う。

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