トップページ > もくじ > あの時と同じ

連続小説

あの時と同じ

私がこんなにも動揺しているというのに、南野は驚きはしても動じた様子はなかった。
寧ろ、なんだか和んだようにも見えた。


「いやあ、はは。
なんだか懐かしいね。あの時みたいだ」


言葉を選んでいるのかと思えば笑い出す南野。
どうしてこの状況でそんな余裕のある表情ができるのか、私にはわからなかった。
じっとテーブルに拳を乗せたままだったツキコが立ち上がる。


「そんな風に誤魔化し・・・あれ?」


憤っているように見えたツキコだったが、立ち上がった途端にハッとした様子で静止しふと首を傾げた。


「なんだかこんな光景、前にもあったような。
デジャヴ?」


ツキコは眉間に皺を寄せ怪訝そうな顔で静々と元の場所に戻る。
そこまでの勢いはすっかり失われていた。
もっと憤慨するのかと構えていたが、拍子抜けである。
これはきっと二人にしかわからない何かなのだろう。
そんな様子が見守る南野の微笑みからひしひしと伝わってきた。
ここまで何度か目の当たりにしていたが、この空気は第三者にはなんとも言えないものである。
突っ込んで聞くべきか、そちらが話し出すまで見守るべきか、結局いつもどちらかを選ぶ前に流れるか話し出すのだが、なかなかもやもやした心内だ。
今回に限っては、もやもやしているのは私だけではないようだが。
席に着いたその後も彼女は訝しげに首を傾げた。
何かが引っかかっている、だが思い出せないという感じだろうか。
ツキコはすっかり俯いて考え込んでしまい、もうさっきの事を聞きだす雰囲気ではなくなってしまった。
こう別の話題に移ってしまっては、こちらからも聞きにくい。
この後機会があったらまたこの話題に戻ってくることもあるかもしれない、と私は一旦胸の内にしまっておくことにした。
今はこの、ツキコが言うデジャヴの正体も気になる。


「ほら、わ「あっ」


様子を見ていた南野が助け船もしくは正解を言おうとした時だった。
彼の言葉に重ねてツキコが顔を上げる。
どうやら思い当る事があったようだ。
ツキコが話を始めると同時に南野は口を閉じた。
発言が被った場合、聞き手に回るのは大抵彼の方である。


「思い出しました。
これって私が南野さんに働かないかって誘われた時と同じなんですよ。
あの時も私、テーブルを叩いてましたね」

「そうそう、そうなんだよー!
あの時も私、なかなか言い出せなくてねー」


2人は思い出話に和やかに笑い合った。
なんとなく何の話をしているかは分かったが、そこに私の入る余地はない。
私は二人を交互に見ながら、どうしたものかと考えた。
入るなら今のような気もするし、振られるまで待った方が良い気もするのだ。


「私も一応人間だからね、緊張もするんだよ」


南野が言葉を続ける。
入るタイミングはここではなかったかと私は一旦胸を撫で下ろした。

<< 南野の頭部          今がそのタイミング >>
トップページへ

PAGE TOP