雲の上への扉

舞台のように

世の中は私が思っているよりもずっと自由になっているようだ。
南野と話しているとそれがよくわかる。
テレビで見た時は自分にはまったく関係のない話だとただそういうものもあるのだという冷めた気持ちで観ていたが、今南野に言われ、内容はあの時見たテレビと大差はないのに不思議と心が躍り、もっとよく知りたいと思うのだ。


「せっかくだしいろいろ見るかい?」


南野は立ち上がると部屋の中の、私たちが入ってきたのとは別の引き戸の前に立つ。


「ぜひ!!」


私は彼の後に続いた。
鈍い音を立てて開いた戸の奥は窓ひとつなく薄暗い。
南野が先に入り、左側の壁に手をつくと部屋内が明るく照らされた。
うちにはないが、おそらくここはウォークインクローゼットというものなのだろう。
左右に備え付けられた棚とハンガーラックにたくさんの華やかな衣類や小物が展示されるように収納されており、正面には大きな姿見がある。
その様子はまるで店屋だ。
こちらに見せる様にきちんと揃えられた靴や小物、よく見るとその棚は照明が付いておりまるで美術品或いは舞台のようにライトアップされている。
実際に入ったことはないのだが、ショッピングセンターなどで横目に見る女性向けの衣類を扱っている店の雰囲気によく似ているのだ。
私は思わず息を漏らした。


「いやぁ、すごいですね」

「でしょ。
人に見せる場所ではないんだけど、なにせ凝り性なものでね。
実際お店に千鶴さんを連れて行くわけにいかないから、せめて家でショッピング気分を味わうことができないかなってクローゼットを改造してみたんですよ」

「なるほど、確かに」


毎日ショッピングに行くような気分でその日着る服を選ぶのは楽しそうだ。


「こっちは普段着系、こっちはよそ行き、その辺はツキコちゃんの作った服が多いかな。
よかったらいろいろ好きに見てくださいな」


南野に説明されながら、私は棚に手を置いた。
好きに見てくれと言われても何処から見たらいいものか迷ってしまう。
取りあえず入ってすぐの右側の棚から順番に見ていくことにした。
欲張りだとは思うが、せっかくだから全部見たい。
私はハンガーにかけられた最初の一枚に手を掛けた。
他の服に比べて地味と言うか、普通な感じの若草色のワンピースだ。
何の変哲もないシンプルなデザインで柔らかくて触り心地がよく、何故か不思議と懐かしいような印象を抱く。
所々変色しており、それなりに年季が入ったもののようだ。


「それはね、初めて私が最初のラブドールを迎えた時に買った服なんですよ。
もう他の子に着せることもないんだけれど、なんとなく捨てられなくて取ってあるんだよね」


南野は感慨深そうにワンピースを見つめた。

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