雲の上への扉

ドスの聞いた声

「だ、大丈夫ですか!?」


動揺しながらも私は南野に声を掛けた。
打たれた頭よりも勢いよく折れた首の方が心配だった。


「いてて・・・
大丈夫、大丈夫」


首を抑えながら頭を上げ、左右に首を振ったり回したりして調子を確認する南野。
どうやらなんともないみたいだ。
折れたりはしていないようで私はひとまず安心する。
冷静に考えてみれば、殴られて折れるなんて相当な力じゃないと無理である。


「もう、ツキコちゃん。
頭はやめてって言っているでしょう。
もう若くはないんだよ、乱暴にしたら怪我するって」


一度も後ろを見ずに、南野は始めからわかっていたというように漆黒の女を嗜める。
今この家には私と南野の他にはツキコしかいないのだから当たり前と言えば当たり前なのだが、あまりにも慣れた様子に私はぽかんと口が開く。
仲がいいのだということはここまでで充分わかっていたつもりだったが、このやり取りを見ているとまるで兄弟のようだ。
この歳になるとなかなかこういったやり取りも無くなるものだ。
この様子を見ていると、なんだか私は寂しくなる。


「社長がうかつなことを言おうとするからですよ」


ツキコがしれっとした態度で言い放つ。
なんだか不機嫌そうだ。


「きちんと最後まで聞いてよ。
もしかしたら言わないかもしれないじゃない」


首を擦りながら南野が答える。
どうやら年齢の話はツキコにとってのタブーだったようだ。
南野の背後から離れツキコは二体のラブドールの間の椅子に腰掛けながら、私の方を横目で見た。
そして動作を止め、真っ黒な口を開く。


「永遠の18歳ですので」


これ以上聞くなと言わんばかりのドスの聞いた声だった。
これはそういう設定ということだろうか。
いやだがしかし、実際に18歳という可能性もある。
最近の子は服装やら化粧やらで実際の年齢よりも老けて見える子もいるから、それはあり得ると思う。
しかし真っ黒な唇から放たれるに相応しいまるで物語に出てくる悪い魔女のような声に、私はそれ以上言及することもなくただ無言で首を縦に振る。
まるで蛇に睨まれた蛙だ。
私が頷いたのを確認するとツキコは大きなフリルが邪魔くさそうなスカートを正しながら席に着いた。


「まぁ、本人はこう言ってるけどしっかり成人済みだから安心してね」


南野が冊子類を拡げながら補足する。
どこを安心したらいいのかはわからないが、私は再び頷いた。
また背後から張り手が飛んでくるかと思ったが、そこはどうやら許容範囲のようだ。
私には彼女の基準がわからなかった。
二人の間に何か暗黙の了解的な物があるのだろうか。
きっと、そうなのだろう。
なんにせよツキコの年齢がいくつであれ私にはあまり関係がないのだ。
私はこの話にはこれ以上触れないことにし、テーブルに広げられた冊子に視線を映した。

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