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連続小説

どうやってここまで

「無料ですよ」


即答だった。
答えたのはツキコだ。


「1回やれば、違いがわかりますから。
リピーターが多いですよ」

「講座もあるんですよね?
覚えたら自分でできるんじゃないんですか?」


私の疑問には南野が答える。


「講座もやっているよー。
でもね、自分でもできるけど、結構手間だからねぇ。
それに、たまに外でそういうサービスを受けるのはドールにとっても気分転換になるだろうし。
人間もマッサージとかエステとか行くでしょ、それと同じ感じ」

「なるほど。
私もドールを迎えたらぜひお願いしたいですね。
あ、でもどうやってここまで連れてこようかな・・・」


私は車を持っていないのだ。
バスや電車のような公共の乗り物は、ドールを連れて歩くのは目立つだろう。
見た感じ、ラブドールは生きている人間よりも華奢である。
大きなスーツケースなら入るかもしれないが、これまで旅行もしてこなかった私は生憎そういう物は持っていない。
スーツケースなんかに詰めるのは心が痛むが、出歩くとなると購入する必要があるだろう。


「都内なら私が送迎もできるよ。
送迎料はもらうけど、ラブドールと一緒に外に出るのって大変だからね。
そのために2種免許も取ったし、きちんと届けも出しているから安心して乗ってもらって大丈夫だよ。
家まで行ってもいいし、最寄り駅で拾うこともできるよ」

「そんなことまでしてくれるんですか!」

「もちろんもちろん。
私達はラブドールとご主人様の思い出作りをお手伝いするための活動をしているんだよ。
足がないとか、連れて出るのが大変だからって理由で出られない人が多いから、送迎は絶対に必要なことだからね」

「そういうサービスがあると、私みたいな車を持ってない人もラブドールと一緒に出掛けやすくてありがたいですね」

「でしょ」


ここまでの話はどれも楽しそうで魅力的だったが、その中のいくつかはラブドールと一緒であることが前提の話で、私にとってハードルが高そうだと思っていたその最たる理由が移動手段が限られているという点だったのだ。


「講座があるときとか、何かイベントをやるときとか気軽に言ってもらえれば。
東谷さんって前に会った公園の近くでしょ?
そのくらいなら特別な事が無くてもラブドールと一緒に遊びに行きたいとか出かけたいって時は言ってくれれば拾うよ。
ツキコちゃんちの通り道だからさ、ついでにね。
ついでだからこっちの時間に合わせてもらうことになるけど、そのくらいはいいよね?
あ、ついでの時はお金は取らないから、安心して」

「あははっ、ありがとうございます」


私がさっき、メイクの無料サービスの事を気にしていたからそれに掛けた冗談だろう。
あまり営業っぽくならないよう、無理強いしているように感じさせないよう、わざと茶化したように言っているのだと思った。
人の好意に甘えすぎるのは、と遠慮してしまいがちな私だが、こういうふうについでと言われるとそれならと思ってしまう。
私の性格をよく理解した言い方だ。
こう言われては、乗せてもらわない方が失礼だろう。


「その時はお願いしますね」


私が言うと、南野は頷いた。

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