雲の上への扉

どうぞ上がってください

玄関からして、もうすでに私の家の寝室くらいの大きさがあった。
と言ってもうちの寝室は4畳半でかなり狭いのだが。
外観に相応しい広い造りで、きちんと揃えられたいくつかの靴と脇に置かれた大きな下駄箱が目についた。
廊下、というか玄関ホールというのだろうか。
少しひらけており、いくつかのドアと木製の階段が見える。
吹き抜けになっているようで天井が高く、とても開放感があった。


「どうぞ上がってください」


南野の後に続き、靴を脱いで足を踏み入れる。
あまりきょろきょろしてしまうのはみっともないとは思うのだが、慣れないその広さに私はついつい周りを見回してしまうのだった。
まるで映画に出てくるような立派な家だが、所々に昔祖父母の家に会ったような古い草花模様のカーペットや骨董などがあり、どこか懐かしさも感じる。


「はは、無駄に部屋が多いでしょ。
今はもうほとんど使ってなくて、どこも物置になってるんですよ」

「へぇ・・・
ご家族は同居されていないんですか」

「ええ。
母は早くに亡くなってまして、父も数年前にね。
今はこの家に一人ですよ。
まぁ、厳密には一人ってわけでもないんですが。あの子たちがいますからね」

「なるほど・・・」


踏み込んだことを聞いてしまったと私は口を噤んだ。
南野は慣れた様子だが、あまり人のことを詮索するのは良くないと思う。
特に家族の話題なんかは、人によってはデリケートな話題だろう。


「いろいろと聞いてしまってすみません」

「はは、気にしないでください。
こんな家に住んでいればよく聞かれることですから」


南野が玄関の正面、突き当たりにある扉を開けた。


「さ、こっちです」


通された部屋は庭に面した大きな出窓があり西洋風の家具が並ぶ、まるで貴婦人がお茶会を行いそうな趣の部屋だった。
細かい刺繍の入った布張りのソファにガラス張りの飾り棚、壁に掛けられたどこかの風景の絵画。
絵にかいたような洋室に私は思わず息を飲む。
こんなおじさんがいるのは似つかわしくない、そんな空間だった。


「あれ、ツキコちゃんは何処かに行ったのかな。
ハルもユメも居ないし。
あ、すみませんね。
まぁまぁ、座ってくださいよ」


きょろきょろと辺りを見回し、僕と目が合うと彼は頭を掻いた。
僕は南野に言われるまま、座るのが躊躇われるような高価そうな布張りのソファに腰を下ろす。
何が詰まっているのか柔らかさはなく、だがしかし何故か実にしっくりくる座り心地だ。


「ちょっと飲む物でも用意してきます。
コーヒーでいいですかね?」

「あ、お構いなく」


南野が部屋を出ようとした時だった。


「用意済みです」


凛とした女の声と共に、私たちが入ってきた扉とは別の曇りガラスがはめ込まれた引き戸がぴしゃりと音を立てて勢いよく開いた。

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