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連続小説

え、言ってなかったんですか

「オタクって言うのは、自分が良いと思ったものを周りにも紹介したいものなんですよ」


ツキコが言う。
ラブドールの愛好家に対してオタクという言葉を使うのはなんだか違和感があるが、何かに対して詳しかったり一途に熱意を持っているという意味ではきっと相応しい言葉なのだろう。
私はそういう事に疎い。
周りにそういった感じで何かに熱中している人もいないからわからない。
だが、本当に良いものは人に勧めたいと思うかもしれない。
それがこういった紹介するための本などに繋がるというのだろうか。
それ以上の説明をしないツキコに変わって南野が続ける。


「そうだねぇ。
そうでもない人もいるけど、そういう人は多いね。
まぁ、そのパンフレットは個人的な意味よりも活動の助けとして作ったっていう感じなんだけどね。
でも確かに、ツキコちゃんの言うように自分が調べたこととか集めたものを人に教えたい、見せたいって気持ちはあるかもね」


彼は話しながら、私に紹介した冊子以外をテーブルの端にまとめている。
きちっと大きさを合わせて重ね、角が揃うように束ねるとぽんと右手をそれの上に置いた。


「そういうのもあるんだけど、私がこういうのを作るのはさ。
カタログって、なんかワクワクするじゃない?
作るのも見るのも見せるのも好きなんだよね。
だから全然すごくなんてないない」


謙遜ではないのだろう。
そう言われると、確かにカタログというものは人をワクワクさせる気がする。
だからといって私は今のところ、手間をかけてまで自分で作ろうという気にはならないが。
きっと南野はそういうことが好きなのだろう。
そういえばさっき、活動がどうとか言っていた。
私はページを捲る手を止める。
こういったものが必要になる活動とは、一体どういうものなのだろう。
初めて会った時、名刺を見て記載されていた文字について訊ねると会社ではないと言っていた。
サークルと言っていただろうか。
ここまでなんとなく流れに乗せられて話をしていたせいで、彼らがどんなことをしているのかを聞くタイミングをすっかり逃してしまっていた。
今までの会話からしてラブドールに関わる何らかの活動、或いは商売をしているのだろうとは推測できる。
かといって、本体を売っているわけではないだろう。
もし本体を売っているのであればカタログや自分たちの所有しているラブドールを見せるより、商品を見せると思う。
いや、もしかして先にそういうものを見せるのが買いたいと思わせる手なのだろうか。
ここまで来て今更疑うこともないが、やはり気になる。
私は南野にどんな活動なのかを訊ねてみた。
すると南野は目を大きく見開き、とても驚いた顔をする。
ツキコが怪訝そうな顔でそれをみて、「え、言ってなかったんですか」と言った。

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