雲の上への扉

エピソード

「っと、話が反れてしまいましたね」


南野はハッとした様子で視線を私が持っているワンピースに戻した。


「えーと、あ、そうそう。
最初のドールの話でした」


南野がドールを迎えるに至ったエピソードを聞けただけでもある意味目的は達成されたようなものなのだが、どうやら彼にはそれ以外に話したいことがあるようだ。
元々話好きなのか、好きなものを語り出すと止まらないタイプなのか、今日会ったばかりだが仕草で話したいことがあるということがわかるようになってきた気がする。
なんというか、そわそわしだすのだ。
正直言うと他の服を見たいという気持ちもある。
だが、南野のことだからきっと面白い話をするのだろう。
私は彼の方を向いた。


「雑誌で見た感じ、そんなに惹かれなかったんですよね。
実際届いてどうでした?」


私が訪ねると、彼は待っていましたと言わんばかりに目を煌めかせた。


「それがね、やっぱりどう見ても作り物でね。
届いた日に少し中を見て、それっきり。
数日は箱から出しすらしなかったんだよ!」

「ええっ」


20万円もする買い物をしてそんなことがあるものだろうか。
私は驚愕した。


「それまた、どうして」

「なんというか、たぶんね、お金を使って満足してしまったんだよね。
その時の私は自暴自棄だったから、貯めたお金をたまらなくくだらないものに使ってしまいたかったんだよ。
だから、届いたドール自体にはあんまり興味が湧かなかったんだよね」

「そういうものですか」


いまいち私にはわからない感情だが、否定してもどうしようもないのでここはとりあえず頷いておく。
きっと悲惨な経験をした本人しかわからない微妙な心情なのだろう。


「数日してからね、部屋の中に大きな荷物が置いてあるのが無性に邪魔くさく感じてね。
当時住んでいたのは一人暮らし用の1LKだったからねぇ。
今考えるとよく数日も放っておけたものだなって感じなんだけど。
冷蔵庫くらいの大きさがあったからね。
そろそろ何とかしないとなって思って箱から出して、すっぽんぽんの人形が出てきたんだけどさ。
当時のドールは肌質なんかもいかにも人形って感じで、どう見てもマネキンでねぇ・・・
正直、勢いで買ってしまったことを後悔したよ」

「なんと・・・」


私は先ほどとは違う意味で言葉を失った。
なんと返していいのかわからなかった。
現状ドールを迎えたいと思っている私だ、同意はしかねる。
かといって、ここで批判するのも違うだろう。
言える言葉がなかった。
南野はしみじみと、まるで自分が話していることの意味を分かっていない様子だ。
とんでもない所で止めたせいで何とも言えない感じになってしまっているが、まだ話は始まったばかりだ、続きがあるに違いない。

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