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連続小説

ファンレター

彼のこの感じ、誰かに似ていると思った。
度々感じていたが、この話好きでよく脱線する話し方、それを嫌と思わなかったのは私がそういう話し方に慣れていたからだろう。
人付き合いのあまりない私にとって、数少ない深い関わりのあるごく身近な、良く知る人物。
母だ。
それに気付いた途端、彼に母の若い頃が重なって見えて思わず笑みがこぼれてしまった。
見た目はそこまで似ているわけではないのだが。


「ん、あれ?今の面白かった?」

「あ、いえ。
ちょっと思い出し笑いを・・・」


漏れてしまった笑い声に南野が反応する。
笑いどころではなかったのだから、無理はない。


「そんなことよりも、ツキコさんとはそういうイベントで会ったんですね。
しかし話を聞いていると、そんな有名な人と一緒に働くようになるって想像が付かない。
何かきっかけがあったんですか?」


私は笑って誤魔化し、話を元に戻した。
なんだか南野とツキコの間では話し終えたような空気になってしまっていたが、私は何も知らないのだ。
ここまで話して先を聞かない、というのは無いだろう。


「ああ、そうだね。
最初はただのファンだったんだけどね。
今の活動を始めるにあたって、色々とアドバイスというか助言をもらったんだ。
今って、ネットを使えば簡単に連絡が取れるからね」


話を聞きながら、南野のホームページの事を思い出す。
私が南野に連絡を取った時のように、きっと南野も同じようにしてツキコに連絡を取ったのだろう。
便利な時代になったものだ。
何かを言いかけた南野を遮り、ツキコが「差し入れと一緒に名刺とメアドを渡された時はびっくりしましたよ」と割って入る。
どうやら私が思っていたのとは違ったようだ。


「始めはファンレターのようなものだったんですけど、やり取りしていくうちにだんだんこういう事がしたいって話になっていったんですよね。
やけにぐいぐい来る人だなーって思ってました」

「いやまさかね、メアドは渡したけど本当に連絡をくれるとは思わなかったよね。
SNSのメッセージの方はいつも返事がなかったからさ」

「向こうは怪しいのは返事しないようにしていたので。
でも名刺付きでメアド手渡しされたら連絡しないわけにいかないじゃないですか」


「会社の名刺を渡されたんですよ」とツキコは大袈裟な手振りでそれがどんなに可笑しなことかを示した。
きちんと自分が何者か示すことは悪い事ではないはずだが、ツキコの様子からしてそれは変わった行いなのだろう。
その界隈での了解的な物があるのだろうが、それを知らない私は苦笑いをするしかない。


「名刺を渡すのって、可笑しいことなんですか?」


このままだと同じ間違いを犯しそうな私は、理由を訊ねてみることにした。

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