雲の上への扉

触れてみたい

「東谷さんにはぜひアルバムを見ていただきたい」


南野のその発言で、私たちは重ねていた手を離し元の席に戻った。
南野だけはアルバムを取りに部屋を出て、その間私は隣に座る赤いドレスのドール、ハルに触れることを許してもらい、初めてその手に触れたのである。
人工的に作られたにも関わらず、それを感じさせないほど自然に自らの膝に軽く手を置いている彼女の白い手に、私は指先をそっと滑らせた。
人間の皮張りの肉や筋の感触とは明らかに違うというのが指先だけでもわかる。
硬い、だがしかし滑らかでしなやかさを感じる。


「そんなちょっぴり触るだけでいいんです?」


指先でハルの手の甲をなぞっている私をツキコが神妙な面持ちで覗きこむ。
傍から見て奇妙な光景に見えたのかもしれない。
しかし私にも私なりの理由がある。
できればもっとしっかりとこの手で感触や造りを確かめたいが、何しろ私は慎重な性格なのだ。
この人形の扱い方やどの程度力を銜えることが可能なのか、素手で触って汚れてしまったりしないだろうか、その後のケアなどは手間ではないのか等、一つしようとすると10も20も余計なことを考えてしまう性分なのだ。


「壊れたりしないか不安で・・・」


私はいろいろと言いたいことはあったが簡潔にそう伝えた。
ツキコは一瞬面食らったように目を丸くし、すぐに口元に手を当ててくすくすと笑った。
どうやらツボに入ってしまったらしい。


「壊れたりって、そもそもその子たちは性具なんだから、触るくらいで壊れたりしないですよ。
そりゃ、押し倒したり無理やり捻じったりしたら壊れますけどね。
それじゃ触りにくいでしょう?
ちょっと待ってくださいね」


ツキコが席を立ち、ハルの後ろに回り込む。
そして彼女の腕を肘を支えながら持ち上げ、まるで正面に手を伸ばそうとしているような状態で止めた。


「これなら見やすいでしょう。
あ、そうだ」


ツキコは一度ポーズを確認するために離した手を再度ハルの腕に戻した。
漆黒の爪が目立つ指先でハルのドレスの袖口を大きく捲り上げ、細く白い腕を露出させる。
血のように赤い袖から伸びる腕はその色の深さからか、よりその白さを際立たせているようだった。
私は何故だかひどく興奮した。
今まで腕に何らかの執着を感じたことはない。
その異様な白さからか、隠されていた部分が露わになった背徳感からか。
まるで吸い寄せられるように目がその腕に行ってしまうのだ。
その腕に触れてみたい。そんな気持ちが私の中に満ちていく。
ツキコがニヤリと笑う。
私のこの欲求がまるで見透かされたような、はたまたそうなることを仕組まれたような、まるでそうなることを知っていたかのように見える。


「手もいいんですけど、ぜひ腕も触ってみてくださいな」


どうぞと言うように、ツキコが手をすっとハルの方に向けた。

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