雲の上への扉

5年くらい

結局私がツキコから解放されたのはそれからしばらく後になってからだった。
南野の言葉など全く聞く耳を持たない、と言うよりも聞こえていないと言った様子で私の手を取り振り続けたツキコを南野が強制的に引き剥がし、ようやく私は自由になったのだ。
握られていた手はじっとりと汗を帯びており、なんだか申し訳ないような恥ずかしいような気持ちだった。
ツキコはそのことは特に気にした様子もなく、テーブルに置かれた食べ終えたカップラーメンと箸を持って部屋を出ていく。


「すみませんねぇ。
吃驚したでしょ。ツキコちゃんも仲間が増えるのが嬉しいんだよ。
ちょっと反応が斜め上で初めての人は吃驚するんだけど」


南野は苦笑しながら壁際に置かれた凝った装飾が施された戸棚の下段を開けて中からいくつかの冊子やチラシを取り出し始める。
先ほど二階で彼も同じような反応をしたのだが、本人は気付いていないのだろうか。
私は椅子に腰掛けながらそのことについて訊ねてみた。


「ええっ!?
ああ、いやあ恥ずかしいなぁ。
長いこと一緒に居るとなんとなく似てきちゃうんですよね、不思議と」


わざとらしく驚いた様子を見せながら、彼は照れくさそうに荷物を持っていない右手で雑に頭を掻いた。
後頭部の髪が乱れてまるで寝癖のように跳ね上がる。


「長くって、こんなことを聞いてもいいのかわからないですけど、どのくらいなんです?」

「うーん、そうだね。
かれこれ5年くらい、かなぁ」

「5年!
それは結構長いですね。
ツキコさんって若く見えるけど、一体いくつなんでしょう」

「あっはっは。
皆気にするんだよね、ツキコちゃんの年齢。
東谷さんはいくつくらいだと思う?
ツキコちゃんの年」


突然こちらに話を振られ、私は頭を悩ませる。
あの服装とメイク、そして自由な言動のせいで、彼女は少女のようにも大人のようにも見えるのだ。
私達より若いということは間違いないだろうが、5年という事は高校卒業から一、二年後くらいに知り合ったとしてそれなりの年齢ではあるのだろう。
そしてここまでの話からして南野の所で働いているようだから、成人済みであることは間違いない。
それからこれは私の勘、というかイメージだが、30まではいっていない様に思えた。


「20代半ばから後半くらい、ですかね」


必要なものが揃ったのかテーブルの方へと向かってきた南野に私は推理の結果を述べる。


「おお、ドンピシャ。
正解はね・・・」

「オシャベリハソコマデダ」


南野が言いかけた途端、背後から現れた黒い影がロボットのような棒読みで言葉を遮り彼の後頭部を殴打した。
鈍い音を発した後、それなりの勢いだったのだろう、髪を乱しながら南野の頭が前方へと折れる。
私は驚いて、思わず立ち上がった。

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