雲の上への扉

話を続けようか

「ええっと、どうしようかな。
まず、そうだね。
私たちは見ての通りラブドールを扱ってるんだ」


南野が手で左右のハルとユメを指す。
私は頷きながら目線でそれを追った。


「こう言うとラブドール自体を売っているみたいに思われるかもしれないけれど、うちでは本体の販売はしていない。
じゃあ何をしているかって言うとね、ラブドールってこんなものっていう事を広めるためにSNSやウェブサイトの運営、それとイベントなんかを開いて広報的な活動をしたり、ラブドールをお迎えしたご主人様向けにお迎えした後のサポートやケアなんかをしているんだ」


彼は慣れた様子でそこまで言うと、一旦言葉を止めて息を吐いた。


「一度に話すと疲れちゃうね。
ちょっと飲み物を用意するよ。
コーヒーでいいかな?」

「あ、はい。お構いなく」


立ち上がろうとした南野を、斜め向かいの女が袖を大きく揺らして制止する。


「私が用意しますから、お二人は話を続けてください」

「お、そう?
助かるよ。
私と東谷さんにコーヒーね。
それじゃ、頼んだ」


南野に代わり立ち上がったツキコは頷くと軽く会釈し重そうなスカートを持ち上げて、廊下に繋がるドアとは別の、私が入ったことのない方のドアから部屋を出た。
それを見送り、南野は椅子に座り直す。


「それじゃ、話を続けようか。
ええと、あ、そうそう。
さっき言ったのが主な活動でね、それ以外にも講習会とか交流会とかツキコちゃんが作った洋服やアクセサリー、それからウィッグの販売、写真集や情報誌の製作、ラブドールに関わることなら何でもやっているんだ」

「さっき上で、メイク教室の事は少し言っていましたね」

「そうそう!
メイク教室も私たちの活動のひとつだよ。
ツキコちゃんが講師で大体2カ月に1回位のペースでやっているんだけどなかなか人気でね。
毎回5、6人くらいここに集まってメイクの練習をするんだ」

「ここで、ですか!?」


私は周りを見回した。
それなりの広さがある部屋だが、如何にも客間という様相のこの場所でそんなことをしているなんて想像ができなかった。
それを察したのか、南野が笑う。


「あ、この部屋じゃないよ。
別の作業用の大部屋でね。
この部屋じゃラブドールの分の椅子が足りないからね」

「え、皆さんラブドールを連れてくるんですか」

「勿論だよ!
せっかくのメイク教室だからね、自分のドールにしてあげたいじゃない。
それにここでなら、もし失敗してもツキコちゃんに手直ししてもらえるからね」

「なんだか、その、すごいですね」


練習台のようなものに向かってメイクをする姿を想像していた私は、思いもよらない話に息を飲んだ。
ラブドールを広めるための活動をしている南野が彼女たちを連れて写真を撮りに行くのは実際目撃して知っていたが、他の所有者も彼程ではないかもしれないが、活発なようだ。

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