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連続小説

ほら、ぴったり

「いいですね」


人と飲みに行くなんて、もう何年もしていない。
私の飲みのイメージは職場の飲み会である。
それも最近ではほとんどないのだが。
昔は職場で誘われることもあったがもうこの歳になると周りも同期の半分は転職し、残りも所帯を持ったりと年末の忘年会と春にある送歓迎会くらいしか飲みに行く機会なんてなくなってしまったのだ。
もっともそれは口下手な私には有り難いことだが。
職場の飲み会は私にとって苦痛なものだったのだ。
そんな私だが、南野の誘いは大いに賛成だった。
新しくできた友達と酒を酌み交わし親睦を深めたいし、酒が入れば私ももっと饒舌になれるだろう。
彼はいいねーと言って酌を傾けるジェスチャーで応じた。


「社長、紙袋これでいいです?
もっと大きいのもありましたけど」

「おっけーおっけー。
大丈夫だよ、それで。
そんなに大きいものを入れる予定はないからね」


戻ってきたツキコから紙袋を受け取ると、南野はテーブルの上の冊子の束をそれに入れた。


「ほら、ぴったり」


紙袋はまるで誂えたようにすっぽりと冊子を収めた。
南野はそれをこちらへと差しだし、私は受け取る。
中を覗くと本状になった物が3冊とまとめられていないバラの紙類が数十枚入っていた。
なかなか読みごたえがありそうだ。


「ああ、それからうちのペーパーももらってね。
こっちは配布してるものだから、持っててもらっていいから。
混じらない様にホチキスで留めておくね」


南野は自分の後ろの棚の、一番上の引き出しから紙を4枚取り出した。
それを同じところに入っていたホチキスを使い隅で留め、私に渡す。
見ると片面白黒印刷で文字が多く、さっき見た冊子類と違い写真ではなくイラストが所々に描かれている。


「これは?」

「ペーパーだよ。広報誌とでもうのかな。
最近の活動の紹介とか、今後のイベントの情報と詳細が書いてあるから。
一番上が最新号で、残りはバックナンバーね」

「へぇ・・・」


さっと目を通すと、確かにそんなようなことが書いてあった。
最近有ったイベントの感想文とでも言うのだろうか。
一番上の紙の話題はどうやらお花見イベントで、意外と風が強く花弁がウィッグに絡まって大変だった、なんてことが面白おかしく書いてある。
それから下半分は彼の言うように発行日の先のイベント予定で、2、3か月先の講座やお出かけイベントの日にちや時間、概要が書かれていた。


「あ、来週メイク講座があるんですね」

「そうそう!
今流行のドール風デカ目メイクってのをやるんだよ。
フォロワーさんの中にどうしてもやりたい!って人が居てね。
東谷さんも参加する?」

「うーん、まだ自分のラブドールがないですし・・・」

「大丈夫ですよ、練習用のヘッドもありますから」


ハルの手を触っていたツキコが私に言う。


「そうだね。
自分のドールを連れてくる人もいるけど、自分だけって人もいるから心配ないよ」

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