雲の上への扉

一目散に

朝、パソコンを開いて確認したが、メールの返事は来ていなかった。
私は少しがっかりし、大きく安堵した。
返事を待ってはいるが、実のところ返事が来たとしてそれがどんな内容か、どんな返信をすべきかなど考えると気が重かったのだ。
私は一つ息を吐いて、いつも通り家を出た。
昨日南野と遭遇した公園は朝だからということもあり無人で、昨日のことが嘘のように静かだ。
それを通り抜け、いつもと同じように通勤する。
そしていつもと同じように職場へ到着し、いつもと同じように仕事をするのだった。
そうして午前が終わり、昼を食べ、午後。
いつもと変わらない仕事だが、今日は特に長く感じた。
気になっていまいち仕事が手に付かず、普段であれば定時を過ぎてもあれやこれや、やることがあり少し残って捌かして帰るのだが、今日は早々に切り上げることにする。


「お?東谷さん、今日は早いっすね」


ロッカー室で後輩の山本に声をかけられた。
できのいいやつである。
私はこの山本が少し苦手だった。
地味でなんの取り柄もない私とは対極にいるタイプで人当たりがよく、仕事も早い。
そんなところが自分のダメさをより鮮明にするようで、山本と話しているのは辛かった。


「はは、ちょっと用事でね。
お先です」


私は会話が続かないよう誤魔化すように愛想笑いし、早々にロッカー室を後にした。


「おつかれーっす!」


後ろから山本の元気のいい挨拶が聞こえた。
そんなところも苦手だったのだ。
私はなんとも言えない気持ちで、まだ明るい空の下、帰路に就いた。
朝来た道を辿り、いつもの公園を横切る。
南野はいない。
もしかしたら会えるかもしれないという期待は少しあった。


「いやいや、おじさんがおじさんに会えるのを期待するとか」


私はまだ学生だったころ、帰り道で好きな人とバスが一緒になるのを毎日期待して通学していたことを思い出して恥ずかしくなった。
そういうつもりではないのだ、と自分に自分で言い聞かせる。
南野に会いたいのはあくまでもドールのためなのだ。


「コンビニは・・・今日はいいか」


今はとにかくメールのチェックがしたかった。
私は寄り道をせず、早足に家に向かった。
ポストの確認もせず階段を駆け上がり、すぐにドアを開けられるようにずっと握りしめていた鍵で玄関を開けた。
そして上着も脱がずに一目散にパソコンへ向かう。
帰ったらすぐに確認できるよう、朝、パソコンの電源は落とさなかった。
そのおかげで開いてすぐ、メールをチェックできた。


「返事、来てる・・・」


あまり使っていないメール画面の一番上に、新着メールは、あった。
見慣れないアドレスに、メールありがとう、南野ですの件名。
それは間違いなく、あの男からのメールだった。
私は震える手でそのメールを開いた。
?

前の記事へ          次の記事へ
トップページへ

PAGE TOP