雲の上への扉

色っぽさ

「私の趣味が丸出しでちょっと恥ずかしいんだけれど、どうかな。
ハルやユメに比べたら地味かもしれないけれど」


南野は照れくさそうに頭を掻くと千鶴と呼ばれたラブドールのワンピースに僅かに寄っていた皺を伸ばした。
その様子からハルやユメとはまた違う意味で、とても大切にされているのだろうということが窺える。


「下の子たちに比べてすごく大人っぽいですね。
雰囲気も何処か色っぽさがあるというか」


私はとりあえず、見た儘を述べた。
しかしこの人形、なんだか何かを思い出すような感じがある。
何かに似ているのか、持っている雰囲気的に近い何かがあるのか。
既視感に私は頭を捻る。
見れば見るほど、胸を擽る様な懐かしさが込み上げてくるのだ。


「ああ」


ふと脳裏に浮かんだ光景に不意をつかれ、声が出る。
それはとても懐かしく、そして何故だか妙に熱のある思い出である。
当時の私は中学生で、丁度異性を意識しだす年齢だった。
周りも妙に浮足だち、しかしそれを周りには隠しているまだ青い頃だ。
当時の私も例に漏れず、意識している異性がいた。
それは私にとって到底手の届かない存在だったため思いを告げることはなかった。
ただ毎朝、家からいちばん近い大通りのバス停で姿を見る、それだけの人だった。
突然ふと、彼女の居るあの景色が浮かんだのだ。
そう、そうだ。
このラブドールはどことなく彼女に似ているのだ。


「こんなこと言ったら変に思われるかもしれないんですが、昔・・・中学生くらいの時ですかね。
近所に住んでいた大学生のお姉さんに憧れのようなものを持っていたんです。
思えばあれは初恋だったのかもしれませんね・・・。
なんとなく、この子・・・千鶴さんはあの時の彼女に似ているような・・・。
どことなく懐かしさのようなものを感じてしまいます」


私は自分のまとまりのない言葉に苦笑する。
上手く伝えられなかった。
自分でもよくわからない。
こんな思いは初めてだった。
私の言葉に、南野はまるで鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている。
今更ながら私は恥ずかしくなってきてしまい、弁明をしようとしたときだった。


「いやいやいやいや、これは参ったな」


驚き顔のまま、南野が口を開く。


「もしかしてツキコちゃんから何か聞きました?
いや、でもあれか・・・あの子は私のプライベートのことを話すようなことはしないし・・・」

「ええと、どうかしました?」


半ば独り言のような状態の彼に、私は戸惑った。
何かいけないことを言ってしまったのだろうか。
南野は私の反応に慌てる。


「いや、あんまり的確だから驚いてしまって。
実はこの千鶴さんなんですけど、イメージが私の初恋の相手なんですよ」

「えっ・・・!?」


私は話の流れから南野が最後まで言う前に、何故彼が驚いたのかその理由を察してしまった。
その様子を察して南野は頷く。

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