雲の上への扉

変えたいなって・・・

南野にツキコがコーヒーを啜りながら続く。


「個人的にはここに来るけど交流会には参加しないって人も多いのです」


二人の言葉で、私は今までの自分を思い出す。
これまでの私なら保守的で立場や状況が変わるのを嫌い、出来るだけ変化のない生活を選んでいた。
二人の言う通り、少し前までの私はそんな場に参加したりはしなかっただろう。
しかし、今は不思議とそんな気持ちはない。
南野とラブドールに出会い、ラブドールを通してツキコに出会い、目の前に広がる新たな世界に希望を抱いているのだ。


「確かに、そういうタイプだったと思います。
でも、変えたいなって・・・せっかくラブドールを迎えるんだから、そういう部分も変えていきたいんです。
南野さんの話を聞いていたら楽しそうでしたし」


私は猫背になってしまっていた背筋をしっかりと伸ばして二人を見る。
なんだかちょっぴり、それだけで随分と視界が明るくなった気がした。


「と、すると、だ」


南野は顎を撫でながら唸った。


「ハンドルネームを使うかどうか、やっぱりきちんと決めておかないとね。
これから活動に参加するなら呼び方はちゃんとしないと。
もし使うなら私たちも呼び方を変えた方がいいと思うし」


しっかりと私の思いを受け止めて、真剣に考えてくれているということが眼差しでわかる。
茶化すでもなく、だからと言ってそれ以上突っ込んで聞かれることもなく、私は安心した。
どちらでも照れくさいことになってしまっていただろうから。


「ですよね。
それで、このまま東谷と呼ばれるのもまぁ悪くはないんですが、どちらがいいんですかね?」

「うーん、私は本名で通っているけど、ハンドルネームもいいものだと思うよ。
愛称で呼び合っているみたいで仲が良さそうに見えるんだよね。
これは私の偏った見方だけど。
私はほら、誰からも南野さんって呼ばれるでしょ?
時々ね、ああ私はずっと南野なんだなぁって思うんだよねぇ、当たり前だけど。
やっぱりハンドルネームにしておけばよかったかなーと思うことはあるよ」


時折視線を宙に泳がせながら、彼は少し照れくさそうに言う。
もしかしたら、ハンドルネームで活動しているツキコの前でそんなことを言うのは恥ずかしいのかもしれない。
案の定、彼女はさも面白いものを見つけたという様子で彼に絡んだ。


「そんなことを思っていたんですか」

「べ、別にいいでしょ!」


南野は顔を赤くして手のひらをツキコの方へと向ける。
これ以上はやめてくれということだろう。
しかし彼女は言葉を止めず、しばらくそのまま照れている南野を言葉巧みにいじったあと飽きてしまったのか表情が元の希薄な物に戻り、突然私の方を向いた。


「難しく考えることないと思いますけどね。
ハンドルネームなんてフツーですよ。
使いたければ使えばいいし、そうでなければそのままでいいんです」

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