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連続小説

カップラーメン

落ちてしまったメモ紙とボールペンを拾い上げ、私はわざとらしく咳払いをひとつして話を元に戻す。


「というわけで、購入する際に注意することとか選び方とか購入できる場所とか、そういうことで具体的なことを教えてもらいたいんですが」

「勿論勿論!喜んで教えますよ!
そうなるとあれだ、カタログを見てもらった方が早いな。
購入を検討している人向けのペーパーなんかもあるんで、お渡ししますよ!」


大袈裟な手振りを交えながら、南野は早口に言う。


「それにしてもね。
メールをくれた時からきっとこの人はラブドールをお迎えするだろうなとは思っていたんだけど、こんなにすぐとはね。
結構時間がかかる人が多いんですよ、興味があってもお迎えした後の場所の問題とかお金の問題とか色々あるから。
まぁ、みんな結局は我慢が出来なくなってお迎えするんだけど。
あ、カタログは下の部屋にあるんで、戻りましょう。
東谷さんがラブドールのお迎えを決めたって知ったら、きっとツキコちゃんも喜ぶだろうなぁ」


そこまで言って、彼は自分が一人で喋り続けていたことに気付き「なんかすみません」と照れくさそうに笑って頭を掻いた。
私はそれに笑顔を返す。
そしてようやく動き出した南野の後に続いて部屋を出た。
廊下は窓から差す夕焼けの赤ですっかり染まっている。
南野の自室の窓は薄手とはいえカーテンが閉まっていたためわかりにくかったが、もう日が暮れ始めていたのだ。


「ああ、もうすっかり夕方ですね」


階段を下りながら私は思わず呟いた。
平日であれば仕事の定時を過ぎたくらいか。
休日は日中日用品や食料の買い出しをする以外はほとんど家で過ごすため、こんな時間に外に居ることはない。
なんだか不思議な気分だった。


「そうですねぇ。
あれやこれや話したいと思っているとあっという間で。
こんなことならもう少し早い時間に待ち合わせるべきだったな。
まだまだ話したいことがたくさんあるんですよ!
これはもう、今日はもしかしたら泊まってもらわないといけないかもしれませんね」

「ええ!?
それは困りますよ!
明日は普通に仕事なので」


そんな冗談を交わしながら、私たちは笑いながらこの家に来た時に通されたあの部屋へと戻る。
出た時は開いていたドアが閉まっており、それを開けて部屋に入ると高級そうな洋風の内装に似合わない馴染みのあるジャンクな香りが漂っており、それを嗅いだ南野は眉をひそめた。
さっきまでのテンションが一変する。
その香りの発生源は探すまでもなくすぐにわかった。
そこには一人しかいないのだから。
左右にドールを置き、その人物は漆黒のドレスで夕陽の赤を受けながらよく見る赤いロゴの入ったカップラーメンを啜っていた。
そう、ツキコだ。


「あ、おかえりなさい」


彼女は啜ったラーメンを咀嚼し飲み込むと、こちらを一瞥し抑揚のない声でそう言った。

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