トップページ > もくじ > 彼の器の大きさ

連続小説

彼の器の大きさ

「スマホにしたらSNSのアプリ入れてくださいね。
そしたらフレンド登録しましょう。
社長のIDは知ってますよね、名刺に書いてあるし」


そう言えば、最初にもらった名刺に何かのIDが書いてあった。
おそらくそれだろう。


「それ、フレンド検索のとこに入れたら一発で出ますから。
もしわかんなかったら教えるんで、メールでいいから連絡くださいね」

「まだいつ変えるかも決まって無いのに、ツキコちゃんはせっかちだなあ。
別に急かしているわけではないから、急がなくてもいいからね。
逃げるものでもないし」

「ははっ。
じゃあ、近いうちにとだけ」


遅い時間まで働いているわけではないが、仕事の後にわざわざショップまで行くのは面倒だという気持ちがある。
絶対にあれやこれや聞かれるだろうし、大体は手続きにも時間がかかるのだ。
待つ人もいなければ予定もないし問題ないのだが、仕事をした後にわざわざそんな面倒な事をするのも、と思ってしまう。
まだラブドールも購入していないし、急ぐことはない。
連絡は多少不便ではあるが、私がスマートフォンに機種変更するまではメールにしてもらうよう伝えた。


「じゃあ何か用があればメールでね。
いやあ、解散って言ってから結構長話をしてしまったね。
ごめんごめん。
いつもこう、何かするっていうとあれこれ思い出しちゃうんだよね」

「あはは、わかりますよ」


ようやく解散の空気になり、私は立ち上がる。


「車出すから乗っていって。
あの公園でいいよね」

「え、良いんですか?悪いですよ、そんなわざわざ」

「いいのいいの。
どうせツキコちゃんを送らなきゃいけないからさ。
丁度通り道だしね」

「遠慮することないですよ。
どうせもっと話したいって思ってるんですから」


後ろからツキコが口を挟むと、南野はうんうんと頷いた。


「それならお言葉に甘えようかな」

「おっけーおっけー。
じゃあちょっと上着と鍵を取ってくるから玄関で待ってて。
ツキコちゃんはハルとユメをお部屋に、着替えは帰ってきたら私がするからそのままでいいからね」


ツキコは南野の指示を受け、廊下側ではない方のドアの奥へラブドール一体ずつを抱えて行った。
一体あの奥は何があるのだろうか。
ツキコがコーヒーを持って出てきた辺り、きっとキッチンがあるのだろうと思っていたのだが。
大きな家だから、きっと複雑な構造になっているのだろう。
私は疑問を抱きながら、南野に促され紙袋を持ち玄関へと向かった。


「それじゃ、取ってくるね」


玄関正面の階段を上がり、南野は千鶴さんのいるあの部屋、彼の自室へと向かう。
来た時も思ったが、広い家だ。
彼の自室以外もいくつも部屋があると思われるドアがあるし、外観以上に間取りがある様なそんな錯覚を受ける。
こんな広い家で1人でも彼があんなに明るく社交的で、ちっとも寂しさを感じさせないのは、きっと一緒に暮らすラブドールやラブドールを通じて知り合った仲間がいるからなのだろう。
彼はこの家は親の持ち物だと言ったが、私はなんだかこの家が彼の器の大きさを表しているような、そんな気がした。

<< いいですね          自分だけの >>
トップページへ

PAGE TOP