雲の上への扉

かつら?

「あ、別にあれですよ!
こう、特別感を出したからと言って何かを売りつけようとかそういう意図はないんでね!」

「えっ、ああ、ははっ!
それは大丈夫です、今までの話を聞いていたらそんな風には思わないですから」


あまりにも露骨すぎたと思ったのか、南野は慌ててそう言った。
私は一瞬戸惑ったが、突然の否定が可笑しくて笑ってしまう。
そうすると南野もつられたように笑った。
閉め切られた部屋内の空気が明るく朗らかなものに変わった気がした。
空気が解れた所で私はこの部屋に来た理由に着目する。


「千鶴さんはまったくツキコさんは手を加えていないんですか?」


ぱっと見た感じ確かに下の階で見た人形たちとは違うのだが、だからと言って巻かれた髪や微かに色付いた顔などが何もしていないとは思えなかったのだ。


「うん、ツキコちゃんにはやり方を習っただけで直接手は付けていないですよ」

「そうなんですね。
てことは、この髪がふわっと巻かれているのも南野さんが?」

「いや、それはそういうウィッグが売っていて、それをただ被せているだけ。
ちょっと前まではもう少し短めのストレートだったんですけど、ネットで見ていいなぁって思って買っちゃった」


元々そういった形になっているものがあるのかと、私は感心した。


「いいですね。
自分でやるのが得意じゃなくても元々こういうものが売っているなら、いろいろとやりようがありそうだ」

「ええ、最近はなんでもありますからね!
ウィッグはサイズが合えばラブドール用じゃなくていいんですよ。
形も本当にいろいろあるし、色もすごくカラフルなんですよ。
黒とか茶色みたいな普通の色からピンクや水色、ものすごく明るい緑色なんかもあったかなぁ」

「え、それって誰が使うんです?
サーカスやテレビ番組なんかの小道具ぐらいしか私は思いつかないなぁ・・・」


たまに駅で金髪や赤毛の若者を見ることがあるが、それもあくまでもお洒落の範疇である。
そもそもかつらというと薄毛を隠すという使い道しか思いつかないのだ。
かつらの事をウィッグと呼ぶということも、ここに来て初めて知った。
カラフルなかつらを使う場面など、私には到底思いつかなかった。


「あれですよ、今流行っているコスプレに使うことが多いみたいです。
漫画のキャラクターの格好をするやつね」

「ああ、なるほど」


テレビでそういった特集を見たことがあった。
物凄い人混みの中、まるで漫画やテレビから飛び出してきたような華美な人たちがカメラの前で自らが纏っている衣装のキャラクターに成りきっているようにポーズをとっていたイメージがぼんやりと浮かぶ。
確かに彼らの頭は色とりどりだった。


「一部ではそういうカラフルなものを好んで普段使いで使っている人もいるみたいだけどね。
一般的な髪色の物はファッションで使われてもいるんだ。
おかげで形や材質もすごく豊富で、安価でいい品質の物も多くなったし少し値が張るけど長持ちするものやいろいろといじれるものも多くなった。
お洒落とかコスプレとか、そういうことで需要があるおかげで私達みたいなラブドール愛好家もドールの着せ替えのバリエーションが増える。
ありがたいことですよ!」


南野は意気揚々とそう語った。

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