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連続小説

希望を胸に

大体並べ終わったころ、メンバーたちがラブドールたちと共にこちらへ集まってきた。
身内だけで15人、それに協賛企業から来た営業の人とそのスタッフ、それからイベント会社から雇った警備が数人、総勢23人。
それにメンバーたちが連れてきたラブドールが居る。
結構広く取ったはずのこのスペースだが、これだけの人数が集まると流石にせまく感じる。
いつの間にか来ていたモカさんが、最後の箱を開けた私に近付いてきた。


「ダニーくんってば、全然迎えに来ないんだから。
連れてきちゃったよー。
あっちに座らせておいたからね」

「あ、すみません。
こっちが忙しくって・・・ありがとうございます」

「いいよー。
おかげでうちの子降ろしてくる時間なかったけど、設営やってくれたから許す!
うちの子はこれ終わったら降ろしてくるよー」


そう言って私が開けた箱を受け取ると、モカさんはツキコと話し始める。
やることが無くなってしまった私は、モカさんが連れて来てくれたゆかりに会いに行くことにした。
仕方がなかったとはいえ、置き去りにしてしまったことに多少罪悪感もある。
ラブドールたちの席は、予め決めていた。
彼女たちはイベントの間、基本的には休憩スペースの真ん中であるここでお茶会をしていてもらうことになる。


「お、ダニやんそっちもう終わった?」


スマートフォンで写真を撮っていた小太りの男が、私に気付き声を掛けてきた。
彼はクマというハンドルネームで、結構な頻度で南野のイベントに参加しているラブドール愛好家だ。


「うん、もうほとんどね」

「てことはもう時間か。
いや、とうとう始まるんだね」

「ほんと。
緊張しちゃうよ。
まあ、会場したらやることはないんだけど」


他愛ない会話をしながら、私たちは笑い合う。
ゆかりはモカさんの言った通り、すでにお茶会の席に付いていた。
まだ全員が揃っているわけではないが、すでにゆかり以外にも何人かのラブドールがよそ行きの装いで席に付いている。
折角だから写真を撮ろうと、私はスマートフォンを取り出した。
ラブドールを購入する際、ツキコの勧めで機種変更したのだ。
カメラを起動し、画面内にゆかりを収める。
私はこうしてゆかりが他のラブドールたちと一緒に居るのを見るのが好きだ。
こうしていると、何とも生き生きとして見えるのだ。
きっと彼女たちには彼女たちの世界があり、そこで楽しく話しているのだろうと思えてくるのだ。
私はゆかり一人だけで写っているものを数枚撮り、それからさらに全体の様子を数枚撮った。
まだテーブルの上には空の皿しかないが、これだけでもかなり良い絵が撮れたと思う。
今ではすっかりラブドールの写真を撮るのが趣味になっていた。
一番の楽しみはもちろんラブドールをメイクしたり服を着せたりして飾ることなのだが、ただ飾るだけでは一時の自己満足にしかならず、折角ならと写真に残すようにしたらそっちの方にもハマってしまったというわけだ。
私が写真を撮り終えたのと同時に、休憩スペースへ入ってきた南野が大袈裟に驚く声が聞こえた。


「おお!もうみんな集まってたか!
ごめんごめん、会場の方といろいろ話してたら遅くなっちゃって」


その声で、全員が彼の方を見る。
視線を集めた彼は「いつもより多いな」と照れくさそうに頭を掻いた。


「ええと、もうすぐ開場なわけだけど。
まず、この場を借りて皆さんにお礼を。
今日この日を迎えることができたのは皆さんのおかげです。
本当に、ありがとう」


全体を見渡し、南野は頭を下げた。
それと同じに拍手が上がる。
こうして頭を下げている彼が、一番の功労者なのだ。


「それから」


頭を上げた南野が、私を見て手招きする。
私はそれに応じ、しかしこの人数の前に出るのは殆どが知り合いとはいえなんだか気が引けたので数歩前に出た。


「もう何度か紹介したけれど、改めて。
今回のイベントから正式にうちのサークルのメンバーになったダニーさんです!
今日はダニーさんのデビュー戦でもあるので、絶対に成功させましょう!」


そう言って手を叩き始める南野、それに合わせて皆が拍手し始める。
そう、結局私はこの一年南野やツキコに誘われるまま活動した結果、彼らのサークルメンバーとして今後一緒に活動することになったのだ。
今まで通り参加者として時々手伝いをする道も、彼らとは別の、個人サークルとして活動する道もあった。
しかしそうはしなかったのは彼らと共に居る事に意味があると、そう思ったからだ。
慣れていない私は慌てて頭を下げた。
私たちを囲む仲間たちから拍手が上がる。
人生で初めて、社交辞令以外でもらう拍手だった。
あの日公園で南野に出会わなければ、あの公園で南野が連れていたハルに出会わなければ、そして勇気を出してメールを送らなければ、自分のラブドールを、ゆかりを迎えなければ、この拍手の温かみは一生知ることはなかっただろう。
ヤンダさんやモカさん、それからここに集まる仲間たちと出会えたのもラブドールという繋がりがあったからだ。
一年前の私は、未来の私がこんなふうに仲間や生活を共にするラブドールという家族と過ごしているなど思いもしないだろう。
ただ毎日を垂れ流すように過ごしていた私の人生は、ラブドールという存在のおかげで充実感と実感があるものへと大きく変わったのだ。
感極まって目頭が熱くなる。
そんな私の背を、南野が叩いた。
今日の本番はこれからだ。
私は顔を上げて、一同をまっすぐに見た。
皆、期待を抱きやる気に満ちた目をしている。


「それでは、開場の時間なんで行きましょう!」


南野の声に、皆が呼応する。
私もひときわ大きな声で、気合いを入れた。
今日は私がこれまで積み上げてきたラブドール愛を皆に伝える日であり、正式に彼らの仲間であることを証明する日なのだ。
ラブドールたちに見守られながら、私たちは光差す会場へと歩み始める。
ここには私たちのラブドール愛がある。
これはゴールではない。
ここから始まるのだ。
私は希望を胸に、踏み出した。

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