トップページ > もくじ > 着せかえ人形

連続小説

着せかえ人形

「この方も参加者なんですか?」


私は写真の中央を指差した。


「ああ、彼女ね。
そうだよ」


南野は途端に静かになった。
ここまで何を聞いても興奮気味だったのに、あまり触れたくない話題だったようだ。


「ツキコさん以外にも女性が参加しているんですね」


写真の中の男女は若い女性、たぶんラブドールが前列に座っており、その後ろに参加者が立っているという構図だった。
参加者の方は見た感じ8割が男性で、そこにもうすっかり見慣れた黒装束のツキコと先ほど私が指差した女性が居る。
気になることは色々とあるが、それはその中でも特に違和感を覚えた事だった。


「最近はね、女性のご主人様もそこそこいるよ。
等身大の着せかえ人形って感じでね。
ツキコちゃんもそうなんだけど、元々リアル系のドールを嗜んでいてその延長でね」

「そのきっかけを作ったのは南野さんですけどね」


開けっ放しのドアから現れた、盆に湯気の立つカップを数点乗せたツキコが口を挟む。
彼女はここに来た時と同じように慣れた手付きで、まるでカフェのウェイターのように片手の平に盆を乗せ一枚一枚ご丁寧にソーサーを置いてコーヒーの入ったカップを持ち手が左側に来るように並べた。
それからきちんと細身のスプーンを添える。
私はツキコに一礼した。
ラブドールの分もきちんとセッティングし、中央に薄茶色の角砂糖が入った瓶とミルクが入った小さな入れ物が置かれ、この場は再びお茶会の様相になる。
よく見るとこのカップ、紅茶の時とは別の物のようだ。
白地にゴールドのアンティーク調模様が入っており、紅茶のカップより一回り程小さい。


「おや、これ出したの」


南野は置かれたカップを持ち上げる。


「いいじゃないですか、このカップ可愛いしたまに使わないとカップが可哀想」

「そうかもしれないけど、このカップ小さいからさ。
一口で飲みおわっちゃうよ」

「無くなったらおかわりを入れに行ってくださいな。
きっとそう言うと思って多めに淹れてありますから」


お道化る南野にツキコがツンと言い放つ。
もう慣れたやり取りなのだろう、ツキコはそんな様子だ。


「東谷さんも、おかわりありますから」

「あ、はい」


二人のやり取りを温かく見守っていた私は素っ頓狂な声で返事をした。
自分にも振られるとは思っていなかったのだ。
私はツキコが席に着くのを見届けた後、ミルクをひとつだけ入れてコーヒーに口を付けた。
インスタントとは違う、苦みだけじゃない別の味がする。
紅茶の時は気にならなかった、というか紅茶の良し悪しなんてわからないから気付かなかったが、きっと中身もカップに見合ういいものを使っているのだろう。
これはおかわりをもらってもいいかもしれない。
一気に飲んでしまうのはもったいない気がして、私はカップを置いた。

<< そうでしょう!          世界観 >>
トップページへ

PAGE TOP