雲の上への扉

超えられない壁

こうして話をしていると、どうにも自分は時代から取り残されているような気がする。
この付け睫毛の件もそうだが、そもそもそれを知るきっかけとなったラブドール自体が私には信じられないものだった。
付け睫毛の話を終え、南野がわざとらしく咳払いをした。
私は睫毛入りの箱から目を離し、そちらに注目する。


「そろそろあのことについても触れておかないとね」

「あのことですか?」

「そう、ラブドールの本来の用途の方。
やっぱり東谷さんも興味あるでしょ」

「ああ!」


度々忘れてしまうが、その話もあって彼と二人で上がってきたのだった。
人形を着飾らせるのが大方の目的とはいえ、そちら興味がないと言えば嘘になるが、かといってすごく気があると言うのも気が引ける。
人並みに欲求もあるしすることはしているが、それをあまり表に出したくない面というか、気恥ずかしいのだ。
その為返答が自然と小声になってしまう。


「まぁ、興味はないわけではないというかあると言えばあると言うか」


煮え切らない返答になってしまった。
こういう時はっきりと物が言えないのが私なのだ。
目の前の男とは会って数時間にしては打ち解けた方、私にしては信じられないレベルでいろいろと話せているのだが、所々まだ簡単には超えられない壁はある。
これまで人とあまり深い付き合いをしてこなかった私はその壁を自ら超えることができず、いつもぶつかってしまう。
それに対し南野はにやついた様子で


「やっぱりせっかくのラブドールなんだから、そりゃ有るよね!」


と言った。
察しがいいと思っていたが、実は違うのかもしれない。
あくまで彼は己の道を進んでおり、時にはマイペースに壁をよじ登ってくるのだ。
戸惑いはある。
だが壁のせいで今まで誰かと友情を育むことができなかった私にはそれは有り難いことだった。
そのおかげでこうして、今までの私なら絶対にしない様な話ができるのだから。


「ラブドールの素敵な所はさ、愛玩物でありパートナーである所なんだよ。
中には着せ替えてメイクして自分好みにカスタマイズするだけでいいって人もいるよ?
それ用のホールのないラブドールも最近では出回ってる。
それもいいと思うよ。
でもやっぱりさ、元来の目的というか繋がってこそラブドールだと思うんだよね、私は」


南野はそう言いながら、ウォークインクローゼットの扉を開いた。
部屋の方で話すつもりなのだろう。
しかし周りには説明するときに引っ張り出した衣類や化粧品なんかが散らばりっぱなしで、私はなんだかそれをそのままにしておく気にもなれずとりあえず先ほどケースの外に並べられた付け睫毛や化粧品を箱に戻そうと手に取った。
それを南野が制止する。


「あ、それはそのままで大丈夫。あとでやりますから」


彼は客人である私に片付けなどさせまいと気を使っているというよりすぐにでも話したくてうずうずしているといった様子だ。
私はお言葉に甘えてその場をそのままに、ウォークインクローゼットから外に出た。

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