雲の上への扉

心地よい距離感

重い空気が我々を包んでいた。
結果から言うと、南野の言葉は私の思った通りだった。


「ええ、そうなんです。ご想像の通り。
その初恋の相手ってのも、僕が中学生の時に家庭教師に来てくれていた大学生のお姉さんだったんですよ」

「ああ、やっぱり。
こんな偶然ってあるんですね!」


中学生の男子が年上の女性に対して思いを寄せるというのはわりとよくある話だが、まさかこんな形で出会い意気投合した相手が似た経験をしているということは確かに驚く話だった。
どこかで情報を得て合わせているのではないかと疑うのも無理はないだろう。
もっとも、ツキコからそんな話は一切聞いていないし、実際に私の初恋の相手は大学生のお姉さんだったのだ。


「東谷さんが千鶴さんの事を初恋の大学生のお姉さんに似てるなんて言い出した時は本当に驚きましたよ!
もしかして同じ人だったりして」

「もし我々の初恋の相手が同じ人だとしたら、それこそ奇跡ですよ!」

「ははっ、違いない」


私達は笑った。
この稀有なめぐり合わせに、まだ会って数時間だというのに深い繋がりを感じてしまう。
まるで生き別れの兄妹か、数年ぶりに会う古い親友か。
奇妙なほど気が合い心地よい距離感だった。


「いやぁ、でも。
あ、良かったら座ってください。立っていると疲れるでしょう」

「あ、どうも」


話の途中で南野は机の椅子を引き出しこちら側に向けた。
私は促されるままそれに腰かける。
昔懐かしい学習机の、木製のがっしりとした椅子だ。
私が座るのを確認すると、南野はベッドの私から丁度向かいに腰を下ろし話を続けた。


「千鶴さんのモデルが初恋の相手だっていうのはツキコちゃんしか知らないんだよね。
ツキコちゃんにもうっかりお酒の席で漏らしてしまったからバレてしまったけど、元々言うつもりはなかったし。
東谷さんにも言うつもりはなかったんだけど、まさかそちらから言い出すとは」

「はは、まさかそうだとは思わなかったんで、びっくりしましたよ!
でもなぜ、言うつもりはなかったんです?」

「それは・・・」


彼は頭を掻いた。


「なんていうかね、まず恥ずかしかったんですよ。
ラブドールのイメージを初恋の人から持ってきて寄せたり、初恋の人の名前を付けるのは多くの人がやっているよくあることなんですけどね。
実際自分でやってみると結構こそばゆいものでね」


恥ずかしさを誤魔化すように南野が笑う。


「あとは怖さかな。
初恋の人っていうのは私にとって一つのロマンだったんだ。
それは私にとって秘めた部分というか、ある意味弱点というか、デリケートな部分でね。
あまり人に干渉されたくなかった。
もし否定されたりしたら、私はきっと立ち直れないだろうと思う。
だから千鶴さんのことは完全なプライベートだったんだ」

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