雲の上への扉

好奇心

私は缶を置きニラ玉から卵の部分だけを少し口に運び、ポケットからあの名刺を取り出してみた。
座ったときに曲がってしまったようで左端の角に線が入ってしまった名刺には、澄ました顔の先ほどのあの人形が写っている。
その顔は一見無表情なのだが、笑っているようにも困っているようにも朗らかなようにも見え、不思議と惹きつけられるものがあった。


「そういえば、サイトがあるって言ってたか」


あの不思議な世界を少し覗いてみたい、そんな好奇心からだった。
テーブルの端に追いやられたノートパソコンを久しぶりに開いてみる。
以前どうしても持ち帰って終わらせる必要のある仕事があったために仕方なく購入したパソコンだが、仕事以外で使う用もなくここ最近は充電器に繋がれたままになっていた。
電源を入れ、酒とニラ玉をちびちび交互に口に運びながら立ち上がりを待つ。


「どれどれ・・・
インターネットか」


仕事でPCを使ってはいるが、ノートパソコンの画面は意外と狭く、勝手が違う。
手にすっぽり納まる使い慣れない小さなマウスを動かし、インターネットを開く。
そして名刺にあったURLを打ち込んだ。
無線で繋いでいるからか、パソコンが重いのか、読み込みにやけに時間がかかる。
カーソルの横でぐるぐる回る青い円がやけにじれったく思えた。
画面内に徐々に内容が表示されていく。
まず文字が表示され、ピンク色のストライプにファンシーなタッチの苺が散らばった背景が敷かれる。
それからゆっくりと空枠で囲われたトップ画像が表示された。


「これはまた・・・」


私は思わず息を飲んだ。
トップに表示された画像に、一瞬で引き込まれた。
目が離せなかった。


「これはあの人形、か?」


かなり寄りで撮られた横顔の画像だった。
人形の画像とは思えないほどお洒落な雰囲気のその画像は、長い髪を重力の働くままに流し赤い薔薇が敷かれた中こちらに視線を向けて彼女が横たわっているものだった。
力なくも美しく、これから眠りに落ちるようにも死から蘇ったようにも見える。
寄りで撮られているため長い睫毛の一本一本、その立体感や頬や唇の丸み、肌の透明感、余すところなく彼女の魅力が細部まで詰め込まれている。
花に体を預けているようにも見えるその画像はまるでおとぎ話の中のような、映画のワンシーンのような、幻想的で美しい世界だった。
その全体像にも惹きつけられるのだが、極めつけはなんといっても彼女の表情だ。
一見名刺の画像と同じ無表情なのだが、そこには何とも言えぬ感情がある。
儚げというか、か細そうというか、すぐにでも駆け寄って抱きしめてしまいたいような衝動に駆られる。
気付けば私はビールを飲むのも忘れ、画面に釘付けになっていた。

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