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連続小説

個人の秘密

本名を名乗ることが不便と言う事は無い。
寧ろ長年慣れ親しんだ本名だ、私にとって一番自然な呼ばれ方ではある。
今更ハンドルネームをわざわざ考えるということは面倒くささがあり、同時にどこか気恥ずかしさもあるのだ。
しかし、新しい名前を得るということはそれ以上に期待も大きかった。
新たな名前を得ることによって、今までの冴えない自分から脱せる様な気がするのだ。
もちろん先ほど南野が言ったように、個人情報を守るためということも考えてはいるが。


「お!
そんなことを言うってことは今後参加するつもりってことだね!?」

「えっ!」


思いもよらない返答に私の思考は一旦停止した。
私はハンドルネームのことを聞いたつもりだったが、それがまさかそこに繋がるとは思わなかったのだ。
うっかり抜け落ちてしまったが、確かにハンドルネームを考えるというのは彼が言うようにそちらの世界に足を踏み入れる第一歩に違いないし、考えたハンドルネームをどこで使うかというとそれはやはり彼の言うように先ほど聞いた交流会等なのだろう。
今のところそれ以外に使う場所が思いつかない。
ハンドルネームを考えるということは、南野やツキコの仲間入りをすることに他ならないのだ。
実のところここまで色々と話を聞いてきたがそれはどれも遠い世界の話のように思えていた。
私はまだ自分のラブドールも所有していないし、こういった活動があることもたった今知ったのだから。
南野が始めから積極的に引き入れようとしていればもっと早くに自覚していたかもしれない。
だが、彼はここまで何かを強く勧めたり強要するようなことはなかった。
もし強引な態度であれば、きっと私は彼や彼の活動を疑っていただろう。
そうならないよう、あくまでも自発的に参加したいと仕向けられていたのかもしれない。
南野はきっと、私が自ら参加したいと言い出すのを待っていたのだ。


「そういう事になりますね」


私は頷いた。
それを聞いた南野は歓喜し、ツキコは控えめに、だが歓迎するように小さく両手を打つ。


「いやぁ、嬉しいなぁ!
交流会に参加するメンバーが増えて、きっと皆も喜ぶよ!
何となくだけど、東谷さんは個人で楽しむタイプみたいに見えたから交流会とかどうかなー?って思っていたんだよね」

「えっ!?」


しみじみという南野に、私は驚いた。
てっきりそういうふうに仕向けられたと思ったのに、そうではないと言うのだ。


「参加させようとしていたわけではないんですか?」


どうにも南野の言いようが気になった私は聞かずにはいられなかった。
こんなに話しておいてなぜそう思われたのか、無性に引っかかるのだ。
南野はばつが悪そうに苦笑いをして歯切れ悪く口を開いた。


「そりゃ、まぁ、ねぇ。
参加したいって言ってくれたら嬉しいなーとは思っていたけれど、個人の秘密として留めておきたいって人もいるからね。
悪く取らないで欲しいんだけど、東谷さんもそういうタイプの人かなって思ったんだよ」

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