雲の上への扉

クールなキャラクター

方向性は決まったもののどう伝えたら良いものか、良い言葉が見つからず言い淀んでいると私を遮りツキコが口を開いた。


「というか、あずまさんはもう居るじゃないですか。
会ったことはないけどSNSの吾妻さんが」

「ん、ああ。そうだったね。
文字でしかやり取りがないからうっかりしていたよ!
じゃあ被っちゃうね、あずまは」


私はほっとした。
わざわざ断る必要も、誤魔化す必要もなくなったのだ。


「もう居るんですね、なら仕方ない」


私はさも残念そうに振る舞った。
南野も残念そうに項垂れ、ツキコはやれやれというふうに息を吐く。
彼の性格からして人を忘れるとは思えないから、きっとその吾妻という人物はあまり交流のない相手なのだろう。


「いやでも、字が違うんだよ。
東谷さんのあずまは東でしょ、吾妻くんは吾が妻だからね。
それにほら、ネット上なんて同じ名前の人いっぱいいるからそんなに気にしなくても」


一度は諦めた様に見えた南野だったが、まるで光を見出したようにふと顔を上げた。


「ええ!?」

「ちょ、突然なんてことを」


私が驚いたのは当然だが、さすがのツキコもこれには驚いたようで目をかっと開いて南野を凝視する。
彼女が驚いたのは彼がまだ諦めていなかったことかそれともその発言の内容か、或いはその両方か。
何にせよとんでもないことを言いだしたと思ったのは私だけではないようだ。
ツキコは乱れた呼吸を整える様に小さくこほんと咳をする。
それはとても慣れた様子で、きっと自分のペースを乱されることが好きではないのだろうと思った。
こうして自らを律し、いつもクールなキャラクターを保っているのだろう。


「社長いつも言ってるじゃないですか、フォロワーに名前被りが多くて呼ぶのに困るって。
自ら混乱を招くようなこと言っていいんです?」


こうして見ていると、まるで子供の我儘を諭す大人のようだ。
さっきツキコがカップラーメンを食べていた際にはその立場は逆だった。
二人の立場や役割は、こうやって状況に応じて入れ替わる。
だからこそ、突拍子もなく思いついたことを言えるのかもしれない。
私はツキコにその場を任せ、すっかり見物人のような気分で分析していた。
二人の慣れた空気に入れないというのもあるし、私自身まだ自分の立場が曖昧だからだ。


「いや、まぁ・・・そう言われちゃうとそうなんだけどね。
でもそんな今更というか、こういう時こそ臨機応変にというか」

「臨機応変に、って。
そんなにあずまがいいんですか。
何かこだわりでも?」

「こだわりってほどでもないんだけれどね・・・」


そこで南野は言葉を止めた。
そして言いにくそうに言葉を濁しながら頭をぐしゃぐしゃと乱すように掻く。
その様子を見ているツキコの頭にクエスチョンマークが浮かんだのが見えた気がした。

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