雲の上への扉

マイペースな男

「まぁでも、こうしてみると良いですよね。
最初にツキコちゃんがその布を縫っているのを見た時はおいおい、カーテンじゃないか!と思ったんだけどね」

「あはは、昔は多かったですよね。
そういえばおばあちゃんがこんな感じの生地のスカート着てましたよ」

「ああ、言われてみればうちの母も緑のベルベットのブラウス着てたなぁ」

「緑!うちのおばあちゃんのスカートも緑でしたよ!」

「ほんとに?こう、手でなぞると色が変わるんだよね」

「わかります、子供の頃はそれが楽しくてよく触ってしまったものですよ」


おじさん二人、懐かしい話題に花が咲く。
こうして話していると、彼と私はなんとなくだが年が近いんじゃないだろうかと思う。


「ベルベットとベロアは厳密にいえば別物です」


ふと、背後から不機嫌そうなツキコの声が落ちてきた。
小脇にハルとは別の薄水色のドレスを着た明るい髪色の人形を抱え、先ほどと同じように奥の部屋から音もなく現れたのだ。


「え、そうなの」


南野はツキコの登場に驚いた様子もない。
日常的にこうなのか、ツキコが戻ってくるのが見えていたのだろう。
そもそも同じ空間に人がいるということに不慣れな私には、ツキコの登場はひどく心臓に悪いものだった。


「ええ、見た目は似てますけど伸縮性の有無とか厚みとか厳密にいうと違いますね。
そもそも作られ方が全然違いますし」

「さすがツキコちゃん、詳しいなぁ」

「今後販売する可能性もあるんですから、ちゃんと覚えてくださいよ」


素っ気無く捨てる様に言いながら、ツキコは南野の横の席に抱えていた人形を座らせた。
不機嫌そうに感じたこの言動は、どうやら彼女の素であるようだ。
クール、と言うのだろうか。
今まで接したことのないタイプの人間である。
元々コミュニケーション能力の高くない私はどう接していいかわからず、ツキコが現れると萎縮してしまうのだ。
ツキコは先ほどと同じように丁寧に人形の身体を固定し、ドレスの裾を正す。
彼女のことは正直苦手だが、ドレス姿の女が人形の世話をするという、浮世離れした光景から私は目が離せなかった。


「さて、ようやく役者もそろったことだしお茶会を始めましょうか」


あらかじめ用意されていたティーポットで自分と人形たちの前に置かれたカップ1つずつに中身を注ぎ終え、空いていた席に着いたツキコは妖艶に微笑みながらそう言った。
初めて見た彼女の笑みは少女のように可愛らしいものではなく、化粧の濃さも相まってまるで邪悪な魔女のようだ。
何処か演技じみた態度に私は何を言えばいいのか困惑してしまうが、南野は慣れているのかそれをさほど気にした様子もなく、


「あの、ツキコさん。
私のカップが空なんですが」


と言った。
なんというか、南野は南野でマイペースな男のようだ。

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