雲の上への扉

南野のこだわり

それから私は南野所有の秘蔵の品々をじっくりと見せてもらった。
衣類はもちろんウィッグやアクセサリー、果ては化粧品までその数は実に豊富でひとつひとつをじっくり見るには時間がかかってしまうため、その中で南野が気に入っているというものを重点的に紹介してもらった。
中には、主に化粧品だが、微妙過ぎて私には違いがよく分からないものもあった。
無理もない、化粧などしたことが無いのだ。
南野曰く色味や透明度、ラメが入っているかどうか等いろいろと違いがあるらしく、話を聞くとその奥深さに驚きが隠せない。


「こんなにいろいろと入用だと大変ですね」


可愛らしい装飾の施されたケースに収められた様々な化粧品を見ていると、ラブドールを迎えるのがなんだか敷居が高い気がしてくる。
一回の化粧にここに収められている化粧品を全て使うわけではないのだろうが、きちんと種類ごとに区切られているケースのその分類は私が思っていたよりもずっと多かった。
私がわかっている化粧品など、ファンデーションとアイシャドウ、チークに口紅のせいぜい4種類くらいだ。
しかしここの箱の仕切りはそれ以上ある。
中には睫毛まで入っているのだ。これは化粧品という扱いなのだろうか。


「いやぁ、ここまで多いのはたぶんうちくらいですよ。
基本的にメイクをするのは薄くなってきた時くらいでね。
そんなにしょっちゅうするわけじゃないから、本当は一揃えあれば十分」


南野は収納ケースの中からいくつかの化粧品を選んで取り出した。


「これとこれと、あとこの辺。
今千鶴さんがしているメイクで使ってるのはこれだけ。
ああ、あと付け睫毛ね」


私が疑問に思っていた睫毛入りの小さい箱を取り出し、先に出した化粧品の横に置く。
収納ケースに対し、取り出された化粧品はほんの数種類だった。


「ええ、これしか使わないんですか?」

「そうなんだよ、びっくりでしょう。こんなにあるのにねぇ・・・
新しい色とか、パール仕上げとか、つい気になって買ってしまうんですよ。
あとツキコちゃんのメイク教室で勧められたりしたのとかね。
そんなこんなで、捨てられないのに買ってしまう性分で、気付いたらこんなにね・・・」


南野は苦笑いでこちらを見た。
あれやこれや言った後で、最後に実はこんなに必要はないのだと告げるのは些か格好がつかないのだろう。
しかし、私はなんとなくだが気持ちがわかる様な気がした。
こだわりが強いというか凝り性というか、いろいろと試したくなるのだろう。
こんなに種類があるのだ、自分も恐らくやり始めたらあれこれ試したくなるのだろうと思う。
私はなんとなくわかります、と返した。
そして南野が取り出した睫毛を手に取る。
目に付いて以降、気になって仕方なかった。


「これ、睫毛も化粧のうちなんですか?」

「そうだよ、付け睫毛ね。
これもいろいろと種類があってね。
睫毛って意外と大切で、長さやら形やらひとつで目の印象がぐっと変わるんだよ!」


南野はぐっと変わるのぐっに合わせて力強く拳を握った。
これもまた、南野のこだわりポイントの一つのようだ。

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