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連続小説

南野の頭部

なんというか、ツキコは鋭いようでいて所々鈍い所があるようだ。
今はっきりとそれが見えた気がした。

感情のすべてを理解しきれないというか、まるで何が起きているのかわからないというようなきょとんとした無防備な顔をするのだ。
それもすぐ目を伏せてしまうから一瞬であるが。
一呼吸遅れて口を開いたり、恭しく優雅に見えた仕草はそういうキャラクターなのかもしれないと思っていたが、もしかしたらそういった状況を判断し次にどう動くべきかを考えるための猶予なのかもしれない。
よく見ていると化粧の中に素の彼女が見える気がするのだ。
もっとも、私の考えすぎだというのは否めないが。
一方南野はと言えば、相変わらず頭を掻きながら何故か照れ顔で様子を窺うようにちらりちらりとこちらを見ていた。
何か私に言いにくいことでもあるのだろうか。
南野の視線に私はだんだんといたたまれない気持ちになり、つい、目を反らす。
空気を読んでその場から立ち去ろうにも私には行く先がない。
となると余所に目を向けるしかないのだ。
視線を横に反らすと目に入ったのは南野の頭部だった。
さっきまで自らの手によって掻き乱されていた髪は元々乱れていた所がさらに乱れ、すっかり手の後が付いてしまっている。
髪にそんなに長さがないから、頭皮の白さで跡がくっきりとわかるのだ。
人のことを言えた身ではないが、あまり自分の身だしなみには気を使わない人間なのかと思っていた。
しかし清潔感に欠けるとか、みすぼらしくは見えない。
服装はしっかりとしているし、あの丁寧な物腰のおかげがあってだろう。
しかし何故か、髪型だけが乱れているのだ。
ただ単に寝癖がちだと思っていたが、あの片方だけが爆発にでも巻き込まれてしまったようなアンバランスな乱れ髪はこうして作られていたのか。
確かに、あれだけ頭を掻いていては仕方ないのだろう。
癖というのはなかなかに正しにくいものだ。


「早く言ってくださいよ」


痺れを切らしたツキコが拳をテーブルに振り下ろす。
それほど勢いはなかったが、それなりの位置から叩きつけられた衝撃でテーブルが揺れ、コーヒーのカップが音を立てた。


「あ、ああごめんごめん!
ええとね」


それまでとは一変した、行儀が良いとは言えないツキコのその行動に、南野も我に返ったようだ。
ツキコは真顔に見えるが、どことなく纏っている空気が重い。
言いたいことがあるならはっきり言えと、言わずともわかる。
まさに顔に書いてあるというやつだ。
考えすぎて空気を読むことがあまり得意ではない私にもはっきりとわかった。
突然立てられた大きな音にコーヒーカップの揺れが落ち着いた後もしばらく私の脈拍は早かった。

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