雲の上への扉

もっと愛おしく

私はどう言っていいかわからなかった。
もしかしたらからかわれているのではないだろうか。
しかし、そんなことする必要は彼らにはない。
まるで狐につままれているような感覚だ。


「全然違いますね・・・」

「ええ。
化粧は魔術ですからね」


ツキコの言葉に私はなるほどと頷いた。
その言葉はまさに的を射ている。


「すごいよね、化粧って」

「そうですね、まだ同じ人形だって信じられないですよ」

「ははは!私もだよ!
色を付けるだけで形まで変わって見えちゃうんだから」


おじさん二人は顔を見合わせた。
化粧なんてすることがない私たちはラブドールに関わらなければ知ることもなかっただろう。
私の知る化粧というものはあくまでも顔を引き立たせるようなものだった。


「当時はこれでもかなり良い方だと思ってたんだけどねぇ。
なんとかしたいって気持ちもあったけど、できるだけのことはしてると思ってたし。
ラブドールだしこんなものだろう、みたいな諦めもあったかな」


そう言って南野は遠い目をした。
不自由だった昔を懐かしむ様にしみじみと「それでも可愛い私のドールだったけどね」と呟き、指で冊子の中の人形をなぞる。


「手を加えるともっと可愛く、もっと愛おしくなっちゃうんだから」


私は持っていた冊子をテーブルに戻した。
南野の様子を見ていると私も自分のラブドールが欲しくなってくる。
衣装や化粧、一人のドールを自分の色に染めたい。
そんな感情がふつふつと湧き上がってくる。
手間をかければそれだけ美しくなる、そんなところがとてもいい。
しかし、まったくの素人でもこの写真のようにラブドールを美しくしてやることができるのだろうか。
ツキコは恐らくかなりの手練れ、プロなのだろう。
彼女が手を加えたからこそのこの輝きなのではないだろうか。


「私にもできますかね、その、化粧とかって」


私は尋ねた。


「おっ、もしかしてラブドールの購入を考え始めたり?」


私の言葉に南野が食いつく。


「ええ、その、これを見てたら私もやってみたい、というか。
こんなふうにドールが私の手で綺麗になっていったら素敵だと思って」

「うんうん!わかるよ!
それ、ラブドールの醍醐味だからね!
ラブドールっていうと大人のおもちゃっていうイメージがどうしても強いんだけど、それだけじゃないんだよ。
いやまぁ、そういうこともできるんだけど、それも含めてっていうか」

「社長、落ち着いてください。脱線してますよ」


興奮気味に話す南野をツキコが嗜めるような素振りをしながら遮った。


「ああ、ごめん!嬉しくってついね。
同志が増えるのはいつだって嬉しいんだよ。
で、ええと、なんだったかな」


南野は苦笑しながら頭を掻いた。
悪気がないのだろうし、本気で喜んで、感情が止まらなくなってしまったのだろう。
ツキコが呆れ気味にため息をついた。

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