雲の上への扉

虚しさ

ダイヤルのジーッという音とともに、橙のランプに照らされながら電子レンジ内でさらに乗ったニラ玉がゆっくりと回っている。
私はその様子をぼんやりと見ていた。
この電子レンジのダイヤルはいつからかゼロまで進まなくなっている。
ゼロ手前までは進むのだがそれ以降が何かに引っかかったように動かなくなってしまい、手動で止めるまで温め続けてしまうのだ。
そのため電子レンジを使う際は温め終わりまで付いている必要があった。


「そろそろレンジも買い替え時なんだろうなぁ」


買った時期が近いからか、家中の家電にガタがきている。
日々質素に生きているため金がないわけではないが、全く使えないというわけではない家電を買い替えるのはどうにももったいない気がしてそのまま使い続けてしまうのだ。
全く動かなくなってから買いに行くというのはそれはそれで焦るものだとはわかっている。
実際冷蔵庫の際に苦労をした。
あれは真夏の夜のことだった。
あの時は幸い使っていなかった備え付けの冷蔵庫があったため救われたが、それが無ければかなりのものがダメになっていただろう。
次の日家電量販店で新しい冷蔵庫を購入したが、配送やら何やらで結局次の休日まで冷たい飲み物を求めてコンビニに通う羽目になった。


「ぼちぼち考えておくか」


私はダイヤルを止めて、中のニラ玉を取り出した。
皿の縁は冷たいが、十分温まっているようだ。
ラップをかけたまま温めたので湯気は出ていないが、内側に付着した水滴で中が温かいことがわかる。
私は皿を持ったままレンジを閉め、炊飯器の載った棚から箸を取り、テレビ前のテーブルにビールとともに置いた。
家に居るときの定位置だ。
私は薄っぺらになった座布団に腰を下ろした。
テレビを見る気にはなれず、とりあえずビールを開ける。
ぷしゅっという軽快な音を立てて開いた缶を一気に呷った。
きつい炭酸が喉を焼きながら滑り落ち、腹を満たす。
この瞬間はまさに生きているという感じがする。
私が変わり映えしない毎日の中で唯一価値があると思う瞬間だ。
私は缶の三分の一ほど空けたところでひとつ息をついた。


「この一杯のために生きてるってまさにこういうことなんだろうな」


ビール缶を眺めながら、こんなことでしか価値を感じられない自分に虚しさと笑いが込み上げた。
今喉を通したばかりなのに無性に乾きを感じる。
私は缶を口に押し当て、傾けた。
缶の中身が減っていくのがわかる。
こういう飲み方をするのは本来よくないのだが、どうにも止まらなかった。
あっという間に一缶を開けたところで、右ポケットの違和感を思い出す。


「ああ、そういえば」


それは先ほど公園で、撮影をしていた男に渡された名刺だった。

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