雲の上への扉

胸の内

南野の話に私は何を言ったらいいのかわからなかった。
とても気持ちはよくわかる。しかし、うかつなことを言ってはいけない気がした。
とてもデリケートなことだから、下手なことを言えば彼を傷つけてしまうかもしれない。
今まで上辺でしか人と接してこなかった私にとって、こんな風に内面を打ち明けられるというのは初めて遭遇する場面なのだ。
というか、こんな大切な話を会うのが二度目の私に言ってもいいのだろうか。
もしかして、彼にとっては些細なことなのだろうか。
話の内容からしてそうは思えないのだが、対人経験の少ない私が知らないだけで世間一般的には人との距離感などそのくらいのものなのだろうか。


「その、なんとなく、わかります。
初恋の人って何というか、いつまでも褪せない部分と言いますか一番夢や希望があった輝かしい頃と言いますか、特別なものだと私も思います。
私にとっても初恋の人は誰にも汚されたくない領域ですから。
しかしその、私なんかににそんな大切な話をしてもいいんですかね?」


私はおずおずと尋ねた。
誤魔化したり流したりするのは失礼だと思ったのだ。
もし南野が本気で私に胸の内を打ち明けてくれたのであれば、私も本気で、本音で返さなければいけない。


「もしかして、重すぎました?」


南野は肩を竦める。


「いえいえ、そんな!
ただ、とても深い話だと思ったのであまり親しくない私なんかが聞いてもいいのだろうかと疑問に思ったもので」


私は予想外の反応に慌てて手をぶんぶん振りながら否定した。
それを見た南野は心底ほっとしたような顔で息を吐いた。
その様子に何故だか私もほっとする。
知らぬ間に緊張してしまったようだった。


「はは、そうか。そうだよね。
なんというか、東谷さんならわかってくれるような気がしてね。
実を言うと千鶴さんはあまり見せたことがないんですよ。
でもせっかく見たいって言ってくれたし、この人ならいいかってね」

「それは、無理を言ってしまってすみません」

「いやいやいや、正直言うとありがたかったというか!
なかなか踏ん切りがつかなかっただけで、誰かに見せたい!っていう気持ちはあったんですよ。
こう言ってはなんだけど、千鶴さんに関してはかなり自信がある。
まぁ、親ばかだとは思うんですけどね。
下の子たちに比べたらこの通り、ほぼ素体のままですし。
でもやっぱり可愛い私のドールだから、誰かにわかってほしいみたいなところはある。
あと、見せてもいいなって思ったのはツキコちゃんが背中を押してくれたからってのもある」


そんな状況があっただろうか。
私はピンとこなかった。


「ツキコさんが、ですか?」

「ええ。分かりにくい、というか私とツキコちゃんの仲だからわかるというか。
ツキコちゃんがあんな風に見せたらどうです?なんて言うことはないからね。
私が千鶴さんを人に見せないのは知っているし。
ただ、メールの時点でこの人とはきっと同じだ、仲良くなれる!って言っていたから、背中を押してくれたんだと思うんですよ。
ツキコちゃん的にも東谷さんにならって思ったんじゃないかな」


南野の言葉に私はとても照れくさくなった。
何処をそんなに評価されたのかはわからないが、気に入られたのだということはわかる。

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