雲の上への扉

熱意

南野のメールはとても長文だった。
その内容の大半は私が送った感想に対する返答で、ここをこだわっただとかあれに気付いてもらえて嬉しいといったものだ。
それとドールに興味を持ってもらえて嬉しいということと、ドールについてが長々と書かれていた。
私はその一文一文を、まるで一つの物語を読むような気持ちで読み進めた。
少しくど過ぎる気もするが、熱意のある文章だ。
よっぽどラブドールに対して愛があるのだろう。
その最後に、良ければ都合のいい時に会って話さないかという提案があった。
その提案は私からすれば、願ったり叶ったりである。
しかし、不安もあった。
なぜなら、人の良さそうな男だったとはいえたった一回あっただけのよく知らない男である。
もしかしたら物を高額で売りつけるような詐欺師の可能性だってあるだろう。
誘いに乗ったが最後、何らかのトラブルに巻き込まれる危険があるのだ。


「どうするかな・・・」


私はすぐに返事ができなかった。
今ならば引き返すことができる。
ここで引き返せば、またいつも通りの生活が続くのだ。
ラブドールのことは暫くは頭にあるかもしれないが、今後機会もなく手に入らないとなればいつか忘れるだろう。
私は目を閉じてみる。
困ったとき、何かを考えるとき、私はこうして思いを廻らせるのだ。


「ラブドール・・・」


南野のサイトで見たあのドールたちが脳裏に浮かぶ。
煌びやかなあの光景、ドールたちの表情、世界観。
あんな素晴らしい世界を作り出せる人が、悪人だろうか。
公園で会った南野は、人を騙すような男に見えただろうか。
南野からの返事は、ただ純粋にドールを愛し、それを伝えたいという思いや熱意で溢れていたではないか。


「よし」


私は閉じていた目を開いた。
心は決まった。
メールアドレスをクリックし、返信画面を開く。
南野のメールのように、思いのまま、文章を打ち込んだ。
読み返すこともなく、送信する。


「ふ、ふぅ・・・」


今までにない高揚感に私は心臓の高鳴りを感じていた。
大胆なことをしてしまったように思う。
思いのまま文を書き、誰かに見せる。それだけのことだが無難な分を当たり障りなく書くことが当たり前だった私にとってはとても重いことなのだ。
もしかしたら不備や失礼があるかもしれない。誤字や脱字も考えられる。
そう考えると、よりドキドキする。
私は自分を落ち着かせるため、冷蔵庫からペットボトルのお茶を取り出した。
それを数口飲んで、深呼吸する。


「返事はいつ来るだろうか」


心はまるで乙女である。
ふとそんなことを思い、笑みがこぼれた。
そんなとき、パソコンが控えめに音を発した。


「お?」


聞きなれない音に、画面を覗きこむ。
それはメールの着信音だった。
パソコンでメールをする機会がほとんどない私にとって、それは初めて聞く音だったのだ。?

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