雲の上への扉

お手入れ

「いやぁ、ごめんごめん!
せっかくだからいろいろ見せたくてあれもこれもって思っているうちにいっぱいになってしまってね」


両手で複数の冊子を抱えた南野が部屋に戻ってきた。
私はとっさにハルの腕から手を離し、まるで何事もなかったかのように座り直す。
別にやましいことをしていたわけではないのだが、何故か体が動いてしまったのだ。


「なになに、どうしたの」


テーブルの上に運んできた荷物を広げていた南野がそれに気付く。


「いや、はは」

「せっかくだから東谷さんに最近のラブドールの質感を触ってみてもらってただけです」


何となくあたふたする私をよそに、ツキコがしれっとそう言った。
それを聞いた南野は忙しく動かしていた手を止めて目を輝かせる。


「おお、そうなの!
良いでしょう、こう、するーっとすべすべで!
ちょっと柔らかくてね、それ、エラストマーっていうタイプの素材なんだけど。
より人間に近付いたって感じが、私は好きなんだよね」


大振りな手の動きを交えて南野は力強く説明した。
並々ならないこだわりがあるようだ。


「この子たちは特に肌には気を使っていてね。
元々いい素材だってのもあるけど、ツキコちゃんが丁寧にお手入れしてくれてるからほんとに肌触りがいいんだよ」


南野の言葉にツキコが自慢げな顔で私を見た。
どうやらドール関係の細かいことはツキコがメインでやっているらしい。
何故かはわからないが、手間がかかったり細かい作業だったりするのだろうか。


「手入れって、大変なんですか?」

「うーん、そうだねぇ・・・。
それなりに手間はかかる、かなぁ。
でも手入れをきちんとしてあげた分だけ綺麗になるから苦ではないと思うよ」


手入れをツキコに任せていると発言したばかりの南野が答え、ツキコがそれに頷いた。


「手入れが面倒って思うようじゃラブドールの主人にはなれないですよ」

「そうだね、手入れも込みでのラブドールとの生活だからね」


今度は先ほどとは逆に、ツキコの言葉に南野が頷いた。


「南野さんも手入れをされるんです?」


私の質問に南野は一瞬面食らったような顔をした。


「ああ、私も私のパートナーは自分で手入れをしますよ!
この子たちはうちのモデルさんだからね、特別。
私が手を出したらツキコちゃんが文句を言うんだよ。
私自身はドールの手入れ大好きだからしたい人なんだけど」

「南野さん、作業が雑なんですもん。
ウィッグは絡めるしベビーパウダーは付け過ぎの所と付いてない所があるし、そもそも全体的に付け過ぎなんですって」

「ツキコちゃんが神経質すぎるんだよ」

「社長が気にしなさすぎなだけですよ!」


ツキコがそう言ってツンと横を向いた。
どうやら主導権を握っているのは彼女の方らしい。

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