雲の上への扉

プロデュース

「いやいや、ツキコちゃんとはそういうんじゃないんですよ。
私が彼女の技術に惚れこんで、頼み込んで協力してもらってましてね」

「この人、人形にしか興味ないので」


いつの間にか戻ってきたツキコが会話に加わる。
先ほど現れた時のまま開けっ放しの引き戸の方から、音もなく深紅の召し物を纏った人形を抱えて現れたのだ。
重そうなドレスに重量を感じさせない、まるで猫のような人である。
抱えられた人形もまた彼女に負けず劣らずの布面積を身に纏っているのだが、裾のフリルひとつ乱さずまるで滑るように移動してくる様は見事を通り越して不気味ですらある。
当然のような顔で私の横に彼女の背よりも低い背の人形を手早く、しかし丁寧に椅子に座らせ、また元の部屋へと足早に戻っていく。


「まぁ、そうなんだけどね」


彼女が部屋から出ていくのを目で追いながら、南野がコーヒーを口に運んだ。
私は横に置かれた人形が気になって仕方がなかった。
記憶違いでなければ彼女は初めて南野と会った時に居たあの人形である。
ハルと呼ばれていただろうか。
ほんのりと赤みの差した柔らかな肌に長い睫毛、ゆるく結ばれた穏やかな口元。
あの時とは衣装や髪型は違えど、見紛うことないあの時私を強く引き付けた彼女である。
ぬらりと光る光沢ある布地の血のような深紅のドレスは何故だかあの時よりも彼女を幼く、しかし高貴に見せた。
部屋の雰囲気もあるのかもしれない。
その佇まいはまるでどこかの貴族のご令嬢のようで、彼女が存在するこの景色が一つの絵画のようである。


「彼女、いいでしょう」


彼女に気を取られている私に気付いた南野がコーヒーを置いた。


「彼女のメイクやら衣装は全部ツキコちゃんのプロデュースなんですよ。
元々彼女、もう少し小さめの人形を専門にしてたんですが、それがまたすごくてね。
そのドレスも彼女のお手製で、ほら、サイトにアップしてる写真で着てるのも大半が彼女の作品」

「これ、手作りなんですか」


私は彼女が着ているドレスのスカートの滑らかな布地に触れた。
こういう生地をなんて呼ぶのか私にはわからないが、こういった布地が布として売っているのかということがまず衝撃である。
ファッションに明るくない私には、この布地はどうしても、学生時代学校の体育館の壇上、左右に下がっていた幕の一部に見えてしまっていたのだ。
もしくはホテルなんかにあるソファやらの、高価そうな家具の一部に使われているアレである。
そういった発想になってしまうあたり、自分は本当にお洒落とは程遠いおじさんなのだと思う。


「私にはその布、小学校の放送室にあったカーテンを思い出してしまうんですけどね」


南野が頭を掻きながら冗談っぽく笑う。


「わかります、わかります」


私も笑った。

前の記事へ          次の記事へ
トップページへ

PAGE TOP