雲の上への扉

里帰り

私たちは意気投合した。
歳が近いとは思っていたのだが、こういった部分で共感できるとより近さを感じる。
私は手に取ったワンピースを顔の高さまで上げた。
特に目立ったところもないデザインの古いワンピースだが、そんな話を聞くと特別なもののように思えた。


「今千鶴さんにこの服を着せようとは思わないんですが、サイズも合わないし。
でもね、なぜかこのワンピースだけは捨てられないんですよね」


そう言った南野の気持ちがわかる気がした。
きっと当時の自分の気持ちや思い出がこのワンピースには染みついているのだ。
そんな思い出の品を部外者の私がいつまでも持っているのは申し訳ない気がして、私はそっとそれを元の場所に戻した。
そう言えば、話を聞いていてふと気になったことがあった。


「そういえば、その時のドールは千鶴さんではないんですよね?」

「そうだよー。
20年も前だからね。
あの子は千鶴さんの前の前の前のドールになるかな。
思い入れのあるドールとは言えやっぱり物だからね、破損とかもあるし永遠ではないんだよ。
カタログとか見てたら新しいタイプの子とかどんどん出てくるから、そういうのも気になってしまったりしてね。
実は千鶴さんが来たのはここ数年なんだよ。
たまたま見たサイトで一目惚れしてしまってね」

「へえ、そうなんですね。
あの、それまでの子たちって今はどうしているんです?」


私はふと気になってしまったことを訊ねた。
南野は千鶴さん以外にも数体のドールが存在していたと言ったが、二階のこの部屋に入った時ラブドールは千鶴さんだけだった。
彼女たちは何処に居るのだろう。
何処かに仕舞ってあるのだろうか。
私は周りを見回した。
このクローゼットだけでもかなりの収納があるようだから、この中の何処かにあっても不思議はない。
或いは、他の部屋という可能性もある。
もう一つの可能性が浮かんだが、それはないだろうなと自分の中で否定した。
それに関してはなんとも想像がつかないし、そうあってほしくないと思ったのだ。


「あ、ここにはないですよ!」


私の様子に気が付いた南野が顔の前で手を振って否定した。


「彼女たちはね、新しいドールが来る際に里帰りしてもらったんです」

「里帰り、ですか?」

「そう、里帰り。
私達みたいなラブドール愛好者はね、彼女たちを何らかの理由でメーカーや業者に送ることをそう言うんだ」

「ああ、なるほど」


私は頷いて、それ以上は訊ねなかった。
哀しげな彼の様子から、それが私が先ほど否定した可能性を示しているということがわかったのだ。


「いろいろな理由があるけどね、いつかお別れがある。
だから、その日までたくさん可愛がっていろいろな思い出を作れたらっていつも思うんだよ」


南野はそう言って、話題を変えるように近くに掛けられている洋服を手に取った。

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