雲の上への扉

知りたい

事の始まりはあの男なのだ。
確かに公園での出来事は私の関心を引いたが、それだけであれば綺麗な人形だな、程度で終わっていた出来事だったのだ。
それをここまで膨らませたのはこの名刺である。
それなのにここまで来て御預けを食わされるなんてと私は苛立ちに任せるまま名刺を投げ捨てようとしたその寸前、先ほどサイトで開いた入力フォームが脳裏を過った。
一瞬指先を離れた名刺を私は慌てて掴んだ。


「危ない、危ない・・・」


手の中で潰れたその紙を丁寧に開き、もう一度あのサイトを開く。
パソコンの脇に置いた名刺の歪んだ紙面に印刷されたあのラブドールの表情が悲しげに崩れてしまっているのが気になり、私はサイトが表示されるのを待つ間広げた名刺に力を入れて伸ばしてみたが紙質が硬いのもあり一度ついた皺は消えてはくれなかった。
諦めてパソコンのキーボードに手を戻す。
今度はメールのリンクから入力フォームを直に開き、とりあえず件名と名前の欄に無難に苗字を入れ、パソコンのアドレスを入力したところで手が止まった。


「どうするかな、まずは軽く挨拶かな」


冒頭は今日の公園での礼とサイトを見た感想で当たり障りなくまとめる。
それから本題、ラブドールに興味を持ったこと、購入を検討していること、可能であれば話を聞きたいということを書いた。
これを読んだからと言って必ず返事がくるとも限らないし、返事が来たとしても話を聞けるという確証はない。
だが公園で少し話した程度の人間に名刺を渡すような奴だ、きっと返事を返していろいろと世話を焼いてくれるようなそんな気がしていた。
そうして私は送信ボタンをクリックした。
音を立てることもなく送信は一瞬で、送れたという知らせもなく元のまっさらな入力フォームに何事もなかったように戻ってしまった。


「ふぅ・・・」


できるだけのことはした、私は一息ついた。
遠回りではあるかもしれないが、経験者に話を聞くのは私にとって身になるだろう。
それは結果的に良い買い物を、良いドールを良い形で迎えることに繋がるのだ。
後は返事を待つだけ、返事が来なかった場合のことは今は考えないことにした。

ふと時計を見ると0時を過ぎており、慌ててパソコンを閉じ立ち上がる。
明日も仕事だ。
開いた食器と飲みかけのビールを持って流し台に向かった。
寝なければ明日に響いてしまう。
私は飲みかけのビールを一旦冷蔵庫に戻し皿を片付けシャワーを浴び、先ほどの飲みかけのビールをきちんと空けてから布団に入った。

今日は疲れた。
ラブドールのこと、南野のこと、今日得た知識や経験した出来事にいろいろと思いを廻らせながら私はそのまま眠りの中へと落ちて行った。

前の記事へ          次の記事へ
トップページへ

PAGE TOP