雲の上への扉

素顔のような

南野はそんなツキコの様子は気にしないという様子で、おもむろに運んできた冊子を開いた。
そこにはホームページで見たような、綺麗に着飾ったラブドールの写真が並んでいる。
彼はそれをぱらぱらとめくり、とあるページで手を止めた。


「手入れでどのくらい違うかってのは見てもらうとわかるかな」


冊子を開いたまま、南野は別の冊子を開いた。
開かれた2冊の冊子が私の前に並べられる。
そこには一見同じラブドールが写っているが、どこか雰囲気が違った。


「こっちが私が手入れした時で、こっちがツキコちゃんがやった状態ね。
結構違うでしょ」


南野が左右の順番に指さした写真を私はじっと見つめた。
どちらも真っ白なカッターシャツに身を包みベッドに腰かけているおかっぱ頭のドールなのだが、片方は髪がパサついているというか、整っているのに乱れている気がする。
それとよく見るまでもなく明らかに顔つきが違う。
南野が一人でやっていたときに撮ったという方のラブドールはなんだか顔がのっぺりとしており、もう一方と比べるとどう見ても人形という感じなのだ。


「なんだか、その、こっちは人形っぽい感じですね。
髪とか・・・。
あと、顔が全然違う」


私は見たままを彼らに告げた。
南野とツキコがそれに同意するように頷いた。


「実はこれ、同じドールなんだよ!
ウィッグも同じだし服もおんなじ。唯一違うのがツキコちゃんが手を加えたってとこだけ。
この頃はまだちゃんとした手入れの知識や化粧の仕方も知らなくってね。
これはほとんど買ったままの状態。髪もウィッグを被せてるだけ。
毎日ブラシで梳いてはいたけど、梳けば梳くほど静電気で拡がるしぱさぱさになるし大変だったよ!」

「え!?」


私は驚いて、両方の冊子を手に取った。
交互に顔に近付けてよく見るが、やはり同じ人形とは思えない。
構図も服装も同じなのに纏っている雰囲気が全然違うのだ。


「ほんとに同じなんですか!?」

「同じだよ。
化粧を整えてウィッグを洗って整えてもらっただけ。
これを見せると皆びっくりするんだよね」

「女はお化粧で変わりますから」


私はもう一度冊子を見比べた。
やはり私にはこれが同じ人形だとは思えないのだ。
のっぺりとした一重だった目は彫りが深くまるでハーフのようなくっきりとした大きなたれ目になっており、目の下部には涙袋まで出来ている。
ぼんやりしていた顔立ちはスッと鼻筋が通り血色がよくなり、唇には艶が出て生き生きとして見えた。
化粧というと目蓋に濃いアイシャドウを入れたりくっきりとしたチークや真っ赤な口紅というイメージがあったのだが、そんなものはこの人形には何処にもない。
素顔のように自然で、どう見てもそれが化粧とは思えないのだ。
化粧とはここまで顔を変えてしまうものなのだろうか。

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