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連続小説

楽しみで仕方がない

もうすっかりラブドールを購入したら、出かける事になってしまっている。
正直煩わしさがないわけではないが、それ以上にわくわくもしていた。
着せ替えがしたくてラブドールを購入するのだが、やはりいい服を着ると良い場所で見たいものだ。
あの狭い家の中で、私だけが満足して終わるなんて勿体なさ過ぎる。
まだどのラブドールを購入するか決めてもいないのにそんなことを考えていると、突然ツキコから地鳴りのような音が鳴った。


「ああ、もうこんな時間だね」


南野は時計ではなくツキコを見て言った。
音の主はまるで何事もなかったような顔をしているが、間違いなく今鳴ったのは彼女の腹の音だろう。
女の子なら恥じらうなり嘘でも否定するなりしそうなものだが。


「ああ、びっくりしたでしょう。
この子、決まってこの時間になるとお腹が鳴るんだよね。
体内時計が正確なんだ。
そろそろ夕飯時だし、今日は解散にしようか」

「ああ、えっと。
そうですね。
なんだかんだこんな時間になってしまって・・・」

「いやいやこちらこそあれこれ話してしまってね。
結構いらない話も多かったでしょ。
申し訳ないね、ラブドールの話を聞きに来たはずなのに。
話好きは話が長くてね、わかってはいるんだけど止まらないんだよね」

「いえ、楽しかったですよ。
いろいろと聞けて」


そんなことを言いながら、二人は席を立ちテーブルの上を片付け始めた。
私はすることもないのでそのまま座っている。
まだ部屋を出るという空気ではなかった。
ツキコはコーヒーのカップを集め、南野は冊子を2つの山に分ける。
おそらく私に貸してくれるものと、そうでないものだ。
トレイを持って部屋を出ようとするツキコに、彼は「戻ってくるとき、ついでに紙袋を持ってきて」と言った。
彼女の方は何も反応がなかったが、きちんと聞こえただろうか。

「あ、良かったら夕飯食べに行く?
良い時間だし、もっと話したいし。
うちは何にもないからその辺のファミレスになるけど」

「食べにですか・・・うーん、どうしようかな」


普段なら人と食事をするのは好きではないし必要最低限以外は断るのだが、南野からの申し出は実に魅力的に感じた。
どうせ帰っても冷蔵庫にあるもので済ませるだけになる。
それなら外で食べる方がいいものが食べられるし、洗い物もしなくてよい。
それにもっと話を聞きたいし話したいという気持ちが強かった。
だが、今はそれ以上に家に帰って借りた資料を見たいし、自分のラブドールを選びたい。
だから私は彼の申し出を、惜しい様な気持ちを抱きつつ、理由を告げ断った。


「そうか、そりゃそうだよね。
じゃあ食事はまた今度ゆっくり。
私はファミレス好きなんだけど、どうせなら住みも近いし何処かで飲みながらでもいいよね」


南野は嫌な顔一つせず、寧ろいい事を思いついたというようにまた今度だねと言った。
断ってしまったにも関わらず、別の機会があることを示してくれたことが嬉しかった。

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