連続小説

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「ツキコちゃん、これ、モカさんから」


私はパーテーションで仕切られた会場端の関係者以外立ち入り禁止の区画に足を踏み入れた。
外からは見えないようになっているこの区画は会場のおよそ.3分の1を占める広さで、関係者の荷物置き場と休憩スペース兼メンバーのラブドールの待機場所であり、ラブドール連れの来場者との交流スペースでもある。
元々来場者との交流スペースは仕切らないで会場内に置く予定だったが、個人所有のラブドールの交流ということもあり、プライバシーに配慮して一般会場とは分ける事にしたのだ。
一般会場の方にも同じような休憩スペースを設けているが、そちらに居るのは今回のイベントの協賛であるラブドールの販売元からのレンタルと南野が所有しているイベント用のドールたちである。

「やっと来ましたか。
それがないと私の仕事が終わらないんですよ」


仏頂面のツキコがモカさんから預かったビニール袋を引っ手繰る。


「まあまあ。
モカさんだって好きで遅刻したわけじゃないんだから。
昨日遅くまで準備していたみたいだし」

「そうかもしれないですけど。
あ、これ私の好きなやつだ。
仕方ないな、これで許してあげましょう」


ツキコは赤いパッケージのバターサンドをひとつ取り上げ懐に忍ばせる。
一人で食べるつもりなのだ。
これでモカさんが許されるなら、安いものだろう。
あれは他に買ってきたものに比べずっとお高い。
きっと、最初からモカさんもツキコを宥める為に用意したのだと思う。
しかし事前に寝坊するとわかっていたとは思いたくないから、きっと労うために用意したのだろう。
彼女はこのイベントのため、誰よりも尽力していた。
もしかしたら労働量だけ考えると南野以上かもしれない。
彼女自身はこのくらい余裕だと言っていたが、会場のプランニングや展示するドールたちの準備、それからパンフレットや各種広報や企画の用紙などの作成等、彼女の分担は誰よりも多かったのだ。


「これ、箱から出してもらえます?
私セッティングするんで」


ツキコは袋の中身を選別し、この場で使うと思われる方を私に渡した。
客に振る舞うのは飲み物だけらしく、荷物の大半はこちら側だ。
私は頷いて袋から適当に箱を取り出し、開ける。


「あ、飲み物からで」


私が開けた箱はクッキーだった。
今開けたばかりのそれを一旦置き、別の箱を空ける。
こっちは大丈夫そうだ。
箱から出すとツキコが集めて掴み、用意した籠や入れ物に入れてテーブルの上に並べていく。
自由にここから取って飲んだり食べたりしろ、ということだろう。
インスタントの飲み物や袋で包装された菓子類とは言え、こうしてきちんと皿や籠に入れてセッティングするとまるでお茶会のようだ。
そもそもここの場所のテーマはお茶会なのだ。
会場に着いたばかりの時はただ仕切られた殺風景な空間だったのに、よくやったものだと私は感心した。

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