トップページ > もくじ > 照れくさい

連続小説

照れくさい

異様な光景だ。
中世的な洋風の部屋にそれに合う真っ黒な洋装のドレスを纏う女。
それだけならまるで絵画のようなのに、そこに居る女の手には箸とカップラーメンがあるのだ。
違和感がありすぎて、なんだか夢を見ているような気分だった。


「あー!もう!
なんでカップラーメンなんて食べてるの!」


南野が声を荒げながら彼女に近付いた。


「待っていたらお腹が空いたんですもん」

「臭いが付くからここで食べたらダメっていつも言っているでしょう!」


まるで母親のように南野がツキコを叱る。
しかし彼女はそれに動じる様子はない。
慣れているのか、それとも気にしていないのか。
南野の発言からして日常的に言われているのは間違いないようだ。
それにしても来客中にカップラーメンを食べるなんて、やはりマイペースな人である。
よほど空腹だったのだろうか。
いや、そもそも気にしていないのだろう。
そんな様子だ。


「後でちゃんと消臭剤撒くから大丈夫ですって。
で、どうでした?」


カップラーメンのスープを飲み干し、ツキコは南野を無視して彼の後ろに居る私を見た。
どうって言うのは千鶴さんの事だろうか。
それとも上の階で話した内容の事だろうか。
何をどう言えばいいのか言葉に詰まる。
その隙につい今までツキコを叱っていた南野が思い出したように口を挟んだ。


「東谷さん、ラブドールをお迎えすることに決めたって!」


南野の顔はさっきまで眉をひそめていたのに一瞬で満面の笑みに変わる。


「なんと」


南野の言葉を聞いたツキコは持っていたカップラーメンの容器と箸をテーブルの上に置き、立ち上がった。
そして重そうなスカートを揺らしながら、おもむろにこちらへと向かってくる。
夕陽を背にした漆黒の女はなかなかの圧力だ。
ツキコは南野の横を通り過ぎ、私の前で立ち止まった。


「よくぞ決められた!」


今日聞いたツキコの声の中で、一番大きな声だった。
目を輝かせながら彼女は私の手を取り、上下にブンブンと振る。
二階で南野がした反応と同じだった。
まあ、彼女の方が落ち着いては見えるが。
ツキコの手は先ほどまでカップラーメンを食べていたとは思えない冷たい手だった。
南野の手とは違い指がほっそりとしており、なんだか照れくさい。


「あ、あはは」


私は照れくささを笑って誤魔化す。
南野と違う部分があるとすれば、あの一声の後に言葉が続かなかったことだろうか。
私は困ってしまった。
ツキコは嬉しそうではあるのだが何も言わないため、この後どうしていいのかわからない私は自分から手を離すこともできずされるがまま手を振られ続けるしかなかった。
手がだるくなってきた頃、にこにこしながらそれを見ていた南野がハッとした様子で「東谷さんが困っているじゃないか!」と止めに入った。

<< カップラーメン          5年くらい >>
トップページへ

PAGE TOP