連続小説

ツキコ

「ええとまず、ツキコちゃんは元々コスプレとドールの洋服を作るサークルを個人でやってて・・・これは言ったっけ?言ってないっけ?」


南野に言われ、私はここまで聞いた話を思い返してみる。
何となくそういうような話は聞いた気もするが、しかしはっきりとそう言われたわけではない。
もしかしてどこかで言っていたが、忘れてしまったのだろうか。
ここまで色々な話を聞いたから、印象深い話はよく覚えているのだが所々ぼんやりしている所もあった。
そんなに忘れっぽい方ではないが、しかし最近はふと思い出せないことも少なくはなく、絶対に言われていないという断言はできない。


「聞いたような、聞いてないような」


私は苦笑いでそう答えた。
「いろいろ話したもんね」と言って南野は頷く。


「それじゃ1から話すけど、元々ツキコちゃんはコスプレしたりドールの洋服を作るサークルを個人でやってたんだよ。
ドールってのはラブドールじゃなくてもっと小さいやつね。
私はそっちはほんの少しかじった程度なんだけど、大体30センチから50センチくらいの子が多くて、大きいので80センチ。
小さい子だと10センチくらいの子もいるんだったかな」

「そうですね、そんな感じです」


南野が確認するようにツキコに視線を送ると、ツキコは素っ気無く視線を反らした。
きちんと返答はしているが今までと様子が違うように見える。
言っていることやしていることは今までと変わらないが、雰囲気、というか目が違うのだ。
元々メイクも相まって目力はある。
だが、今はそれだけではない重みがある。
まじまじと見る事は流石に気恥ずかしさと気まずさがありできないが、さっき視線を反らす前に見えたその目に宿るのはまるで怒気のようだった。
勿論、これは私の憶測だ。
机を叩いた余韻や話題を元に戻す際、南野がツキコに気を使ったように見えたせいもあるかもしれない。
そもそも、怒る原因が無いように思うのだ。
今の話に入る前の事を思い返してみても、怒りを誘うような話題ではない様に思う。
しかし、それ以外に原因が思い当らない。
私はまるで爆弾の隣に居るような気分で、南野の説明があまり頭に入ってこなかった。


「大丈夫?何かわからない部分とか気になる部分があったらいつでも言ってね」

「あ、はい!」


何か、おそらくドールに関する説明を話していた南野だったが、私の様子に気付いて話を一旦止めた。
私はすっかりツキコの方に気を取られてしまっていたのだ。
途中から南野の話がまるで背景音のように聞こえてしまっていた。
見た目でわかるほどなのだから、よほど心ここにあらずという表情だったのだろう。
それを憤慨するでもなく話す気を無くすでもなく、気遣われたというのは申し訳ない以外の何物でもない。
せっかく話してくれているのだ、きちんと聞かなければいけないと思った。

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