私も仲間に…
南野はよく言ったとばかりに私の手をぶんぶんと振って、私の肩を叩いた。
何故だか認められたようで、嬉しくなる。
そんな私たちを見ていたツキコが唐突に音を立ててテーブルに勢いよく手をついた。
私と南野は同時にびくりと跳ねた。
油断していたのだ。
一瞬だが、確かに私たちの世界から彼女が消えていた。
それを思い出させるように、彼女の発した音は我々を現実へと引き戻したのだ。
「おっと・・・ツキコちゃーん・・・?」
南野が気まずそうな作り笑いを浮かべながら、彼女のご機嫌を窺った。
返事はない。
顔を下げているのでどんな表情をしているのかもわからない。
大きな音を発したことから、おそらく怒っているのだろう。
彼女を置いて我々が意気投合したことが原因か或いは私が調子に乗りすぎたのか。
何が原因かはわからないが、私は恐怖に震えた。
テーブルに手をついた状態で静止する彼女はまるでいつ噴火するかわからない火山だ。
よく見ると微かに震えており、それが緊張感を高める。
私と南野は顔を見合わせ、息を飲んだ。
突然ツキコが立ち上がる。
勢いよく重量のありそうなたっぷりとした袖を大きく振り上げ、高らかに両手を上げる。
そして大きく息を吸い、黒々した口をこれでもかと開いて
「私も人形とドレスが大好きだー!」
と叫んだ。
私と南野はもう一度顔を見合わせた。
私としては信じられないものを見たような、そんな気分である。
「どうしたのツキコちゃん、キミそんなキャラじゃないでしょう」
「私も仲間に入りたいなと思いまして」
驚いた様子の南野に目もくれず、ツキコは握ったままの私たちの手に自分の手を重ねた。
温かい手だ。
彼女の顔は相変わらずの無表情だが、空気が読める、と言うかノリのいい子だと思った。
ここまでどこか、というか主にこの濃いメイクと愛想のない表情だが、この子に対して苦手意識があったのがそれが一気に吹き飛んでしまった。
「なんか、いいですね」
私は声を上げて笑った。
「いいですねぇ」
と、南野もつられたように笑いだす。
ツキコはふんっと鼻を鳴らしたが、口元は綻んでいた。
此処に居るのは同じ趣味を持つ者同士なのだ。
心成しか、私たちの様子を見ているドールたちの表情も明るくなっているように見えた。
私がドールを見ていることに気付いたツキコが真剣な眼差しで私に問いかける。
「もう一度聞きますけど、東谷さんはこの子たちのドレスどう思います?」
今度は隠すことも恥じらうこともない。
「素晴らしいと思います!
水色の方は清楚だし、赤の方はとても気高く見える。
この赤は一見派手だけど、深みがあるから高貴に見える。
すこし幼げな彼女の顔を大人っぽく見せるいい色ですよね」
私が思ったままを伝えると、ツキコは嬉しそうにはにかんだ。
初めてツキコを可愛らしいと思った瞬間だった。