雲の上への扉

私も私だけのラブドールが欲しい

突然メモを取りたくなったのには、理由がある。
メモの件でボケをやらかしてしまったせいで言い出すタイミングを失ったが、いよいよ心が決まったのだ。
私の心はすっかりラブドールの虜だ。
ここまで見たものや聞いた話、これで欲しくならないわけがない。
私も私だけのラブドールが欲しい。
もうしっかりと、購入することを心に決めたのだ。
だから、何処まで役に立つかはわからないが見るべきポイントや用語などを後で確認できるようにしっかりとメモしておきたくなったのだ。
すぐにラブドールを手に入れたいという気持ちはあるが、購入するなら色々な情報を元に吟味したい。


「ラブドールを、その、購入しようと思うので忘れちゃうといけないと。
家に帰ってちゃんと教えてもらったことを確認しながら本格的に検討したいなと思って」


せっかくメモ紙をくれた南野に黙っているのもなんだし、色々と具体的なことを聞かないといけないため私は彼に心を決めたことを告げた。
それを聞いた南野は一瞬時が止まったようだった。
目を丸くして身体の動きがぴたりと止まったのだ。
しかしそれも一瞬で、せっかく座ったばかりだというのに勢いよく立ち上がり、そのままの勢いで私の手を取った。
持っていたメモ紙とボールペンが音を立てて床に落ちるが、南野はお構いなしだ。


「なんと!なんとまあ!」


目を輝かせ興奮した様子で掴んだ手を上下にブンブンと振られる。
今まですっかり忘れていたが、子供の頃に感激するとこんな反応をする友達がいたことを私はふと思い出した。
顔までは覚えていないが、名前は南野ではなかった気がする。
彼は大人になった今もこんな感激の仕方をしているのだろうか。
そして、南野は子供の頃からこんな感じだったのだろうか。
どうでもいいことだが、腕を振られながら私の頭の中はそれから逃れるようにどうでもいいことを考え始める。


「あっ!
いやいや、すみません!
あまりに嬉しかったもので!!」


遠くを見始めた私と目が合い、南野はようやく我に返り私を解放してくれた。


「はは、大丈夫です。
大丈夫ですよ」


不思議と嫌だとか迷惑という感情は湧かなかった。
ただただどうしていいかわからず困ったのだ。
南野は我を失ってしまったことが恥ずかしいようで、頭を掻きながら千鶴さんに向かって「嬉しいね千鶴さん。仲間が増えるよ!」なんて言っている。
あの反応からして、計算なんかではなく本当に私がラブドールを購入することが嬉しいのだろう。
そう、同じ物を愛でる同志として。
そう考えると、先ほどの奇行を迷惑だと思うことはできなかった。
私も彼らの仲間になれることが嬉しいし、なんだか受け入れられたような気がしたのだ。

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