雲の上への扉

予想外の展開

まだ待ち合わせの時間までは15分もある。
私は自分の目を疑った。
腕時計と駅の時計を見比べるが、時計はずれていないようだ。


「どうもどうも!」


南野が近付いてくる。
私は軽く会釈をした。


「どうも、早いですね」

「いやぁ、具体的な場所言ってなかったんで改札で捕まえないとって思って30分から待ってましたよ」


公園で見た時と同じ調子で南野は頭を掻く。
そこに居たのは間違いなく公園で出会った、人の良さそうなあの男である。


「それは、お待たせして申し訳ない」

「いやいや、こちらこそ場所を伝えなくて申し訳ない。
実を言うと身内が勝手にメールを返信してしまいましてね。
私としてはもっといろいろとメールで話をしたかったんだけども、南野さんは話がくどくて長いからメールだときっと相手が嫌になるって言われてしまいましてね」


妻や家族だろうか、親しい間柄の人間に諭されたようだ。
普通だったら人のメールを勝手に返信するなんて非常識だと思うのだが、あのまま2人でやり取りを続けていたら、話が進まなかったかもしれない。
そう考えると、こうして対面で話す機会を作ってくれたメールの返事を勝手にしたという南野の身内の行為に感謝の意を覚えざるを得なかった。


「こんなところでいつまでも話しているのもなんですし、そろそろ行きましょうか」


南野に移動を促され、私は頷いた。


「そうですね。
どこか入ります?」

「あ、いや、私の家に」

「え!?」


私は驚き、奇声を発してしまった。
会うのは2回目だが、ほぼ初対面のようなものである。
よく知りもしない人間をほいほいと自宅に招くのはいかがなものだろうか。
もしかしたら何か裏があるのかもしれないと勘ぐってしまう。
私の心配を察してか、南野が慌てた様子で


「あ、いきなり自宅とか驚きますよね!
家に来て実際にドールを見てもらって方がいいと思って!」


と説明した。
私は納得した。
まだ不安は残るが、実際にドールを見られるというのは有り難い申し出だった。


「それじゃ、行きましょうか。
あっちに車停めてるんで」

「はい、よろしくお願いします」


南野に案内されるまま、南野の車に乗り込んだ。
車のエンジンがかかり、動き出す。


「そんな遠くないんで、すぐ着きます」


南野がそう言った通り、駅から10分ほど進んだ住宅街の中、二階建ての立派な西洋風の家の敷地に入り、車が止まった。


「到着!」


車のエンジンが止まり、南野が車から降りるのに私も倣う。
周りを見回すと、きちんと手入れされた植木が並ぶ広い庭が目に入った。
家の大きさもさることながら、庭を見ても南野が裕福なことが窺える。


「立派な家ですね・・・」


私が思わず口に出してしまうと、南野は控えめに「親の家なので」と言って頭を掻いた。


「さ、どうぞどうぞ」


南野が家の玄関ドアを開け、入るように促してくる。
私は覚悟を決め、家の中に足を踏み入れた。

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