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連続小説

自分だけの

帰りの車内は思いの外静かな物だった。

ラジオが掛かっていたのに加え運転中にあまり話しかけるのもどうかと自分から南野に声を掛けるのを留まっていたこと、ツキコが終始スマートフォンを弄っていたというのもある。
南野もこちらに気を使ってか、運転に集中するためか、あるいは話が途中になってしまう事を懸念してか、彼の家にいた時ほど積極的に話をする様子ではなかった。
それでもまだ話したいことはあるのだという事は、少ない言葉の端々から感じられたが。
私が降りる公園は、彼の家から車だと10分強程だろうか。

あっと言う間という程ではないが、かと言って車内の静かな空気が苦痛になるという事もない距離だった。
例の公園で降ろしてもらった私は軽く別れの挨拶を交わし、帰路に着く。
新しい出会いや見てきた事、聞いた話のせいでどこか現実感がないような浮付いた気持ちでいたが、いつもの道を歩くとそれも次第に治まっていった。
まるで一つの旅行から帰ってきたような、そんな気分だ。
家に着いた私は自宅の匂いを吸い込み、日常に戻ってきたのだと実感する。
ついさっきまで南野やツキコと一緒だったのが、遠い事のようにすら思えた。


「さてと、取りあえず夕飯・・・
これはそのあとにゆっくり見るか」


手にした紙袋をリビングのテーブルに置き、私は取りあえずやることを先に済ませてしまう事にする。
その方が何かに追われることもなく、じっくりと考えることができるからだ。
私は冷蔵庫にあるもので手早く食事を済ませ、シャワーを浴びた。
これでもうやらなければいけないことに縛られることはない。
その間に高まった気持ちを抑え、私はようやく今日一番の楽しみに手を付けた。
南野の家でも多少は見たが、今ならばじっくりと吟味することができる。
いよいよ私は自分の、自分だけのラブドールを選ぶのだ。


「さて・・・」


私は今日南野の家で取ったメモを脇に置き、冊子のページを捲った。
メモの内容はほとんど覚えているので、見返すこともないだろうが念のためだ。
それから私は時間も忘れ、その冊子に没頭した。
少しページを進めては元のページに戻り、結局は好みの顔かどうかという南野のアドバイスを元に何度も何度も写真を見比べる。
どの子も違った魅力があった。
元々これと言った好みがあるわけではない私は、見れば見るほどどの子も良く見えてしまう。
可愛い系にするか、綺麗系にするか、それすらも決められないのだ。
候補も挙げられないまま、気付けば私はそのままリビングで眠ってしまった。
朝になり目が覚め、真っ先に冊子が折れ曲がったり汚れたりしてしまっていないかを慌てて確認したのは言うまでもない。
結局私がどのラブドールを迎えるかを決めたのは、それから1週間後だった。

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