雲の上への扉

自分の好み

私が話を元に戻すまでもなく、何事もなかったように椅子に腰掛けた南野がテーブルの上の冊子をめくりだす。
ぱらぱらと流れるページには様々なラブドールの写真が印刷されているのが一瞬見えた。


「それで、東谷さんはどんな子がタイプなんです?」


南野とツキコが同時に私を見る。
それは異性としてなのか人形に対してなのか、あまりに漠然とした質問に、私は語尾に疑問符を飛ばしながら首を捻った。


「仰る意味がよく?」

「む、あれかな。
好きになった子がタイプとかそういう感じ?」


南野に訊ねられるが私は答えられない。
今南野が言ったように好きになった子がタイプと言われればそんなような気もするが、しかし今までそこまで誰かを好きになったことがないためそれもまた違う気がする。
漠然と可愛いとか美人、と思うことはあってもそれが自分のタイプであるかどうかなんて考えたことがなかったのだ。
私がそう思う対象に何か共通点があればそれが自分のタイプだと言えるのだろうが、突然好みの芸能人を思い浮かべようとしても何も出てこない。
そもそもやることがないからよくテレビ観るが、それもほとんどが流し見のような状態で、スポーツ中継以外は内容にそこまで関心がないからいちいち芸能人の顔も覚えていないのだ。
職場なんかでたまにそういった話を振られることがあるが、そんなだから全く付いていけない。
今もその時と似たような気持で私は苦笑いをする。


「なんですかぁ、今更恥ずかしがることもないでしょうに」


まるで私が出し惜しみをしていると言わんばかりに南野はにやにやとした。
全くそんなつもりがない私は困ってしまう。
出したくても出すネタがないのだ。
そんな私をじっと見ていたツキコが唐突に発言権を求めるように手を上げた。
誰が許可をするでもなく口を開いたから、それは権利を求めると言うよりも注目を集める或いは南野の言葉を遮るためだったようだ。


「タイプと言っても一口にこれと言うのはなかなか難しいのでは?
私もこれって言うのはないですもん。
ロリータも好きだしギャル系も好きだし清純派も中世的なのも好きですし。
可愛ければいい、って言いたいところだけど美人系やセクシー系も捨てがたいし、巨乳も貧乳もどっちも良い所があるからどっちとは言い難いし」


思わぬ助け舟に私は驚く。
私が困っていることに気付いてくれたのだろうか。
マイペースな子だと思っていたが、意外と周りをきちんと見てくれる子なのかもしれないと私はツキコを見直した。


「うーん、そう?」


南野はピンと来ないという様子だ。
きっと彼ははっきりと自分の好みのタイプを把握しているのだろう。
そしてその集大成がおそらく千鶴なのだ。

前の記事へ          次の記事へ
トップページへ

PAGE TOP